不動産マーケットリサーチレポート最新号 発行 
日本の不動産市場の見通し
 ~不動産価格は高止まりの見通しだが、リスク要因は多く、メインシナリオからの乖離には注意を要する~

株式会社三井住友トラスト基礎研究所

 株式会社三井住友トラスト基礎研究所は、国内主要都市の不動産市場の見通しを示した不動産マーケットリサーチレポートの最新号(2016年10月時点調査)を発行した。以下では、不動産マーケットリサーチレポートの要点を示す。

オフィス市場の見通し

  • 短期的(~2017年)には、2016年の東京、2017年の名古屋を除き、新規供給の抑制が続く。需要については、好調な企業業績や、女性や高齢者を中心とした労働参加の高まりを背景に就業者数の増加が続き、堅調に推移する。ただし、企業の厳しいコスト意識や、自社の条件に合った空室の減少により、2017年には需要の増加ペースは鈍化する。空室率は、2017年には緩やかになるが、低下は続く。平均成約賃料は、空室率の低下を受けて、緩やかに上昇する。
  • 中期的(2018~2021年)には、好調なオフィス市場と低金利を受けて新規供給は徐々に増加していくが、それでも水準としては抑制気味。一方、需要については、就業者数が緩やかに増加する中で潜在需要は堅調だが、空室率が過去最低水準を割り込むほどに低い状況下では顕在化しづらく、供給に合わせた緩やかな増加に留まる。空室率は横ばいとなり、賃料も緩やかな上昇を続けたのち、横ばいとなる。
  • 東京については、2018~20年の大量供給によって空室率が2017年を底に反転上昇し、東京と主要地方都市の半数で、空室率の逆転現象が起こる。東京の平均成約賃料は、2018年をピークに下落する。
  • 地方都市においては、企業がオフィス施策を実行に移せず都市の経済活動自体が鈍化する恐れや、空室が少なすぎて老朽ビルの建て替えが長期にわたり実施できなくなる恐れ、成約事例が少なすぎて賃料の上昇相場が形成されなくなる恐れがある。

賃貸住宅市場の見通し

  • 主要政令指定都市においては、強い人口の転入超過傾向が続いている。好調な雇用環境の下、各圏域の中心都市へ就業を求める人口移動が続いている。また、少子化に伴い学生獲得競争は激しくなっており、大学は学生確保のため都市中心部に移転する傾向にある。今後も、勤労世代や学生を中心とした都市中心部への人口流入は継続し、賃貸住宅の需要は安定的と見込む。
  • 金融緩和の継続に伴い、金利は低水準が続いており、個人・開発事業者の供給意欲は強い。新規供給は現在の水準から上向くものの、労働需給の逼迫に伴う建築費の高止まりや用地取得費の高騰を受け、抑制的な水準で推移する見通し。
  • その結果、主要政令指定都市の需給バランスは概ね安定的に推移し、賃料は多くの都市で上昇すると見込む。ただし、①個人所得の大幅な増加は見込みづらいことや、②企業のコスト意識は引き続き高く、賃貸住宅への補助を増加させる趨勢にないことから、大幅な賃料上昇は見込みづらい。
  • 東京中心部(プライム・都心業務地)では、高級賃貸住宅の空室率の改善が続いており、賃貸負担力の高い需要も堅調である。また、分譲マンション価格の高騰に伴い、都心に居住したいが持家を取得できない層が賃貸マンションを検討し始めていることから、やや強い賃料上昇を見込んでいる。
  • 地方都市は、人口の転入超過数が縮小している仙台市で短・中期的に賃料の低下を見込んでいる。また、大阪市では外縁部で需給バランスの悪化が顕在化し、中期的には市全体の賃料が弱含むと予想する。

商業施設市場の見通し

  • 高齢世帯や単身世帯、外国人居住者等は増加し、また消費者・居住者の大都市シフトが進む。こうした変化は、立寄消費・近隣消費・自宅消費・週末消費等の消費スタイルを促すことになる。
  • 中期的な消費支出は、高齢化・単身化による質的変化を踏まえ、物販支出は横ばい、外食支出は微減、サービス支出は増加すると見込む。
  • 訪日外国人客数は引き続き増加するも、円高や中国の関税率引き上げ、非買物目的客や中間層の増加等により、インバウンド消費の内容は大きく変化しつつある。ニーズ変化への柔軟な対応が求められる。
  • 百貨店および総合スーパーは、生き残り方策を模索することになる。また専門性やコストパフォーマンスに優れた食料品スーパー、ホームセンター、ドラッグストア、衣料品専門店等は、総合業態の顧客を獲得して成長してきたものの、業態間競合の激化により、企業間・店舗間での優勝劣敗が進むと思われる。
  • ショッピングセンター(SC)においては、近年、大量出店を果たしたセレクトショップ等の衣料品専門店が、若年層の減少や価格競争力に勝るSPA企業等に顧客を奪われ、売上減少やテナント撤退が顕在化している。SC市場も頭打ちとなっており、SC再生の方策が問われている。
  • 就業・居住地域の大都市シフトや訪日外国人の増加を受け、大都市圏の都心型SCでは今後も売上と賃料の上昇が見込まれる。一方、それら恩恵にあずかれない郊外型SC等では、下位SCの淘汰が進み、生き残った上位SCがようやく売上効率と賃料を維持できる、厳しい市場環境が予想される。

物流施設市場の見通し

  • 製造業や卸売業での物流拠点の見直しニーズは依然強く、小売EC市場は国内外で拡大を続けており、大型賃貸施設需要は堅調に推移している。多頻度小口輸送・効率的なオペレーションを可能とする施設に対する需要は今後も続くと見られる。
  • その一方で、今後は過去最高水準の新規供給が予定されている。東京圏では2017年に約120万㎡、2018年も約100万㎡を超える可能性がある。大阪圏では2017年に約120万㎡、2018年にも約90万㎡の新規供給が見込まれる。
  • 大量供給が潜在需要(荷主企業の物流拠点の集約・再編等)を喚起することで、需要は高水準になると見込まれるが、東京圏、大阪圏ともに空室率の一時的な悪化は避けられない。
  • 2018年以降は需給バランスの悪化に伴い、新規供給が抑制され、東京圏の空室率は改善に向かう。一方、大阪圏は需要が堅調であるものの、集約・再編需要が顕在化するまでに時間を要することから、空室消化が進まず、2021年までは空室率は高止まりで推移すると予想される。
  • 東京圏および大阪府の中大型施設の平均募集賃料は、需給バランスの悪化に加え、賃料負担力の低下圧力が強まる(トラックドライバー不足による運賃の上昇圧力+労働需給の逼迫に伴う包装・荷役コスト上昇)影響を受けて、中期的に弱含みで推移すると見込む。

ホテル市場の見通し

  • 2016年は、インバウンドが急拡大し国内需要も比較的良好に推移した2015年と比較すると、需要がやや弱含んでいる。
  • 2030年までの国内の宿泊需要の推移を、訪日外国人、国内観光、国内ビジネスの3区分でシミュレーションした。訪日外国人については、①巡航シナリオ、②中国成長シナリオ、③日本訪問率上昇シナリオで行った。①巡航シナリオでは2025年に3,600万人、2030年に4,360万人が見込まれる。
  • 上記の訪日外国人客数予測のうち、①巡航シナリオと②中国成長シナリオについて、宿泊需要の総量をもとに主要な都道府県の宿泊需要を推計し、宿泊施設の将来の過不足について試算を行った。①巡航シナリオでは、2030年に東京では3.4~3.9万室、大阪では2.1~2.3万室の不足が見込まれる。
  • 一方、供給については、ホテルパフォーマンスの改善とインバウンド拡大継続に対する期待感の高まりから新規開業に意欲的なプレイヤーが国内外問わず増えており、2016年以降の新規供給が東京で約3.4万室、大阪では約1.8万室見込まれ、いずれもストックの30%超のボリュームである。
  • 政府は観光推進の一層強化を目指している。その中では、実態として普及が加速している民泊のルール整備、宿泊施設の供給促進に向けた容積率緩和、空港機能強化等の動向が引き続き注目される。
  • 客室稼働率は高水準であるが、市場規模の大きい東京と大阪では長く継続した上昇局面から反転低下傾向にある。一方、地方都市で稼働率上昇の傾向もみられ、地方圏への宿泊需要の波及が認められる。

不動産投資市場の見通し

  • 世界的にリスク分散・利回り確保の観点から不動産投資ニーズの高い状況が継続している。国内では、利回りの低下により年金の不動産投資は足踏み状態にあるが、公的年金が不動産投資の体制を整えており、投資が進めば国内年金で投資が進む可能性がある。国内金融法人による不動産投資も拡大基調。
  • 金融機関の不動産業向け融資は引き続き緩和的。ただし、融資対象物件が小型化、地方化していることから、融資判断が慎重になるケースが出てきている。
  • 不動産の資金需要は強いが、リスク要因も多く、投資家や金融機関は慎重姿勢。
  • 私募ファンド・SPCからの物件売却は一巡しており、取引量は緩やかに減少。長期物件ホルダーの資産規模拡大、私募ファンドの運用期間の長期化により、取引量は緩やかな減少傾向で推移する見通し。
  • 2016年前半の金融市況の軟調によって投資家のセンチメントは慎重姿勢に変化しており、金利も既にマイナス金利政策が導入されていることから一層の低下は見込みづらい。加えて、NOIの成長期待が高まる状況にはない。期待利回りは短期的には横ばい~やや弱含みで推移する見通し。
  • 中期的には、国内外景気の持ち直しと、それによる賃貸市場の回復継続により、投資家の慎重姿勢はやや緩和され、期待利回りは横ばい~やや強含みで推移する見通し。ただし、東京のオフィスについては、大量供給による市況悪化懸念があるため、他のタイプと比べると期待利回りの動きは弱い。
  • 不動産価格は高止まりを続ける見通し。ただし、想定外の金利上昇、世界の政治の不安定性、為替変動による資金動向・企業業績の変動、金融機関の不動産融資姿勢の変化、バーゼルⅢの動向など、不動産市場を取り巻くリスク要因は多く、メインシナリオからの乖離には注意を要する。

不動産マーケットリサーチレポートのご案内

 三井住友トラスト基礎研究所では、全国主要都市の不動産賃貸市場、不動産投資市場の将来見通しや、その市場特性・動向を「不動産マーケットリサーチレポート」として年2回(6月、12月頃)とりまとめ、販売しています。

レポートの構成

第1章 経済環境編
第2章 不動産賃貸市場 (オフィス編)
第3章 不動産賃貸市場 (住宅編)
第4章 不動産賃貸市場 (商業施設編)
第5章 不動産賃貸市場 (物流施設編)
第6章 不動産賃貸市場 (ホテル編)
第7章 不動産投資市場編
第8章 資産価値変動リスク編

レポートの種類・販売価格

  • レポートには、内容の充実した「本編」、要点を簡潔にまとめた「要約版(日本語版・英語版)」があり、全章セット、章別のいずれでもご購入いただけます。
  • 販売価格については価格表をご用意していますので、投資調査第1部・第2部へお問い合わせください。
  • 2015年度は、J-REITおよび不動産私募ファンドの運用会社、建設・不動産会社、金融機関、リース会社、投信委託会社など28社に提供しました。
  • 経営計画や不動産投資戦略の策定、キャッシュフロープロジェクションの作成、不動産開発事業のタイミングの判断、不動産投融資のリスク管理、投資家等資金提供者への説明等、幅広い用途にご活用いただける内容となっております。

※不動産マーケットリサーチレポートの、より詳しい内容は、当社ウェブサイトをご覧ください。
◆ 不動産マーケットリサーチレポート
 ⇒ https://www.smtri.jp/service/report/market_research_report.html

本件のお問い合わせ先

投資調査第1部・投資調査第2部
 TEL: 03-6430-1350
 ⇒ 資料請求・お問い合わせフォーム

  1. この書類を含め、当社が提供する資料類は、情報の提供を唯一の目的としたものであり、不動産および金融商品を含む商品、サービスまたは権利の販売その他の取引の申込み、勧誘、あっ旋、媒介等を目的としたものではありません。銘柄等の選択、投資判断の最終決定、またはこの書類のご利用に際しては、お客さまご自身でご判断くださいますようお願いいたします。
  2. この書類を含め、当社が提供する資料類は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成していますが、当社はその正確性および完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料は作成時点または調査時点において入手可能な情報等に基づいて作成されたものであり、ここに示したすべての内容は、作成日における判断を示したものです。また、今後の見通し、予測、推計等は将来を保証するものではありません。本資料の内容は、予告なく変更される場合があります。また、当社は、本資料の論旨と一致しない他の資料を公表している、あるいは今後公表する場合があります。
  3. この資料の権利は当社に帰属しております。当社の事前の了承なく、その目的や方法の如何を問わず、本資料の全部または一部を複製・転載・改変等してご使用されないようお願いいたします。
  4. 当社は不動産鑑定業者ではなく、不動産等について鑑定評価書を作成、交付することはありません。当社は不動産投資顧問業者または金融商品取引業者として、投資対象商品の価値または価値の分析に基づく投資判断に関する助言業務を行います。当社は助言業務を遂行する過程で、不動産等について資産価値を算出する場合があります。しかし、この資産価値の算出は、当社の助言業務遂行上の必要に応じて行うものであり、ひとつの金額表示は行わず、複数、幅、分布等により表示いたします。
関連する分野・テーマをもっと読む