官民連携の祖国・英国での不都合な真実
 ~日本のコンセッションへの影響は?~

投資調査第1部 主席研究員     福島 隆則

 1999年に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」が制定されて始まった日本の官民連携も、2011年にコンセッション(公共施設等運営権)方式が導入され、いよいよ発展期に入ってきた。政府の強い後押しもあり、仙台空港や関空・伊丹、愛知県有料道路、浜松市下水処理場など、コンセッション方式を活用した公共インフラの民営化が続々と成立している。一方で、日本もお手本にした官民連携の祖国である英国で、その先行きが悲観される事象が相次いでいる。

 PFIは1992年に英国で誕生した。水道、エネルギー、電話、ガス、空港など国営事業を次々に民営化したサッチャー政権後のメージャー政権の時代だ。サッチャー政権時のドラスティックな完全民営化からの揺り戻しの意味もあっただろう。官民連携は、そうした完全な民営と完全な官営の間に位置し、文字通り官民が役割分担して連携・協業するものだ。しかし、シーソーと同じで、いずれか一方に傾けることより、中央で均衡を保つことの方がはるかに難しい。実際、PFIに対するこれまでの批判の多くは、民間側に傾き過ぎていること、すなわち民間側の"儲けすぎ批判"だった。ただ、こうした批判に対しては、政府出資により官側の関与を増やしたPF2の導入など、適切に対応されていたように思われる。

 しかし、先日(1月15日)の英国建設2位カリリオンの会社清算は、PFIの存亡に関わる問題に発展するかもしれない。それはカリリオンが、鉄道、医療施設、学校など多くのPFI事業に関与していながら、不採算入札の繰り返しと受注額に応じた経営陣へのインセンティブボーナスの支払など、自転車操業の実態が明らかになってきたためである。そして官側も、こうした実態を知りながら黙認していたのではとの批判も高まっている。

 さらにダメ押しとなったのが、カリリオンの会社清算から3日後の1月18日に英国National Audit Officeから出された、「PFI and PF2」という過去の官民連携事業をレビューしたレポートだ。冒頭に「カリリオンの会社清算の発表前に書かれたレポート」とあえて記述するなど中立性への配慮はうかがえたが、「PFIが財政コスト削減に役立ったと言うには証拠が不足している」という結論は、PFI推進派に大きな衝撃を与えた。

 こうした英国のPFIに関する論争の厄介な点は、多分に政治とリンクすることだ。PFIを導入したメージャーも、PF2を導入したキャメロンも保守党。一方の労働党は概ねPFI反対派だ。昨年9月の労働党大会では、シャドー・キャビネット(影の内閣)の財務大臣であるジョン・マクドネル氏が、既存のPFI事業を全て解約して公営化すると発言し、大きな波紋を呼んだばかりだ。今後もし労働党が政権を握ることになれば、この"公約"が実現する可能性もある。全ては無理でも、一部の契約の解約・公営化は十分あり得る。そうした場合、日本を含む英国以外の企業がステークホルダーになっている契約が標的になる可能性もある。

 こうした一連の英国での出来事は、ようやく官民連携が発展期に入った日本にとって"不都合な事実"となるだろう。英国をお手本にPFIを導入して約20年。再度英国から学ぶことがあるとすれば、官民連携の議論を決して政治主導にせず、住民や民間主導の地に足を付けたものにすることと言えるだろうか。少なくとも、財政が逼迫する中で老朽化した公共インフラを整備・維持管理していく手段として、PFIは優れている。この原理・原則まで、ないがしろにすべきではない。

 日本のみならず多くの国々で官民連携の仕組みが取り入れられている今、その祖国で起こる"不都合な事実"を世界中が固唾を飲んで見守っている。

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