人口構造の変化が商業施設に与える影響

投資調査第1部 副主任研究員    大谷 咲太

  「人口は減少する。高齢化していく。」と聞くと、暗いイメージを持ってしまう。そのイメージは、影響を受けやすそうな商業施設への投資を躊躇させる大きな要因となっている。人口構造の変化は商業施設運営の源泉となる消費支出にとってマイナスとなることは間違いない。ただし、変化による消費への影響を正確に見通すことができれば、漠然とした不安を抱くだけでなく、どのような施設であれば売上を維持できるのかを推し量ることができ、影響を読みづらい他のプロパティタイプよりも安定した収益を確保できるかもしれない。そこで本稿では人口構造の変化による品目別、購入地域別の消費支出への影響を概観し、消費の変化が商業施設に与える影響を見ていく。

人口構造の変化

 消費の変化を見ていく前に、まずは人口構造の変化を確認する。国立社会保障・人口問題研究所の人口・世帯数の予測を見てみると、変化の特徴は大きく三つある。一つ目は人口減少、二つ目は高齢化、そして三つ目は単身世帯の増加である。

 まず総人口の予測を見てみると、2010年と比較して2020年には396万人減少(3.1%減)し、20年後の2030年には1,144万人減少(8.9%減)と、その減少幅は次第に拡大していくことがわかる(図表1)。総人口が減少する一方で、70歳以上の高齢者は2010年と比較して2020年には676万人増加(31.9%増)し、2030年には828万人増加(39.0%増)する見込みとなっている。そのため総人口に占める70歳以上の比率は高まっていき、2010年の16.6%から、2020年には22.5%、2030年には25.3%と、着実に高齢化は進んでいく。

 世帯構造にも変化が生じる。単身世帯と二人以上世帯を合わせた総世帯数は2020年にピークアウトし、2030年には2010年と比較して61万世帯減少(1.2%減)する(図表1)。このうち二人以上の世帯数は、核家族化による世帯分化によって総人口に比べてペースは緩やかなものの、一貫して減少していく見通しとなっている。その一方で、単身世帯は晩婚化や婚姻率の低下によって幅広い世代で増加していく見通しとなっており、単身化が顕著に進んでいく(図表2)。高齢世帯でも離婚率が上昇していることや配偶者を失うことによる単身化が進んでおり、高齢化と合わせて、とりわけ単身高齢世帯が増加していくことがわかる。

 人口構造の変化から見た消費支出は、高齢世帯でより消費される比率の高い品目、あるいは単身世帯でより消費される比率の高い品目が、人口減少下においても比較的堅調に推移するものと思われる。具体的にどのような品目が該当するのかを見ていくことにする。

図表1.年齢帯別総人口(中位推計)および総世帯数の推移 図表2.年齢帯別二人以上世帯数および単身世帯数の推移

人口構造の変化による消費品目の変化

 人口構造の変化を受けて、消費支出がどのように変化していくのかを品目別に見ていく。先ほどの年齢帯別世帯数の将来予測を用いて、仮に2009年時点での各年齢帯の消費額がそのまま将来も続くものとした場合に、将来の消費構造がどのように変化するのかを推計した。本来は所得の増減や嗜好の変化によって消費も変化すると予想されるが、ここでは人口動態の影響に注目するためにそれらを一定と仮定している。

 2010年と比べて2030年に消費額がどの程度増減しているのかを図表3に示している。まず商業施設の主要な売上となる物販の品目別消費について結果を見てみると、人口減少に伴う世帯数の減少によって2030年の消費額は多くの品目で2010年の水準を下回る。自動車関連のように10%以上減少する品目もあれば、医薬品関連のように僅かながらプラスとなる品目もあり、結果は品目によって大きく異なっている。品目によって差が生じる要因を、①「人口減少・単身化による要因」(高齢化が進まないと仮定して、人口減少と単身化の影響を抽出したもの)と、②「高齢化による要因」(人口・世帯数が将来も変わらないと仮定して、高齢化の影響のみを抽出したもの)に分けて、増減額と合わせて図表3に示してある。「人口減少・単身化による要因」は、人口減少の影響が強く全ての品目で消費の下押し圧力となっているが、家電や家具といった世帯あたりで必要となる品目は、人口減少下においても単身化が進むことでマイナスの影響が緩和されていることがわかる。一方、世帯あたりではなく一人あたりで必要な食料品や日用品は人口減少のマイナスの影響を受けやすい。次に「高齢化による要因」を見てみると、医薬品関連や食料品、書籍といった品目は他の品目に比べて高齢世帯において消費比率が高く、高齢化が消費にプラスとなっていることがわかる。逆に高齢世帯での消費比率が低い被服・靴や自動車関連といった品目は高齢化により消費が大きく落ち込むことが予想される。

 物販以外の外食支出、サービス支出についても人口動態の影響を見てみると、外食支出は単身世帯での消費比率が高く「人口減少・単身化による要因」は小幅なマイナスに留まっているが、高齢世帯になるにつれ外食を控える傾向があり、「高齢化による要因」の下押し圧力を受けやすい。人口構造の変化から見た外食支出の先行きは物販以上に厳しい状況となることが予想される。サービス支出は人口減少・単身化の影響も比較的受けにくく、高齢世帯での消費比率が高いため、物販に比べて堅調に推移していくことが予想される。以上のように、人口減少・単身化の影響を受けやすい品目、受けにくい品目、高齢化による影響がプラスとなる品目、マイナスとなる品目を整理すると図表4のようになる。

図表3.消費の変化と要因分解(2010年→2030年) 図表4.各品目における人口動態・高齢化の影響

人口構造の変化による購入地域の変化

 また、高齢化によって消費地が変化していくことが予想される。年齢帯別の購入地域を見てみると、二人以上世帯では年齢帯によって大きな差は見られないが、単身世帯では60歳以上の高齢者が他の年齢帯に比べて同じ市町村内で購入している比率が高く、より近場で消費を済ませる傾向があることがわかる。今後は高齢者の中でも特に単身世帯の高齢者が増加することが見込まれるため、購入地域が近接化していくことが予想される。


図表5.年齢帯別の消費支出に占める各購入地域の比率

消費品目および購入地域の変化が商業施設に与える影響

 これまで見てきたとおり、人口減少・単身化および高齢化の影響の受けやすさの違いによって、比較的売上を維持しやすい品目と、維持しにくい品目に分かれていく。また高齢単身者の増加によって、消費者の行動範囲が狭まることが予想される。これを受けて商業施設を取り巻く環境も変化を迫られるであろう。

 これまでは大規模な商業施設が次々と出店し、既存の小型店の売上を吸収する形で拡大していった。このような大型化の流れは人口動態の変化を受けて方向転換を迫られる可能性がある。多くのテナントを入れざるを得ない大型の商業施設はフルラインの店舗構成となるために、人口構造の変化によってマイナスの影響を受けにくいテナントだけで構成することは難しい。また大型になるほど広域での集客が必要であり、高齢単身者の増加によって消費者の行動範囲が狭まることで、商圏の縮小を余儀なくされ、集客に苦戦を強いられる場面も予想される。

 人口動態・世帯構造の変化とその影響をより的確に捉え、テナントミックスを工夫することで、収益を安定化させる大型施設も現れるであろうが、上手く対応できない施設では、これまで吸収してきた中小規模の商業施設に逆に売上を奪い返されることも想定される。

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