不動産市場・ショートレポート(8回シリーズ)
コロナ禍で不動産市場は何が変わったか⑤/賃貸市場(物流施設)

投資調査第1部 副主任研究員   上田 紘平

コロナ禍以降も、購買行動のECシフトが加速することで、大型物流施設需要は更なる拡大を見込む。

 コロナ禍での外出自粛に伴う巣ごもり消費により、EC(Electronic Commerce:電子商取引)を通じた食品類や日用品などの購入機会が増えている。元来、日本では、【1】土日・24時間営業形態、【2】高密度な店舗集積、【3】対面購入を選好する商習慣などの「日本型商習慣」の特性を背景に、消費者はリアル店舗での購入を好むことで、ECを通じた購入形態が欧米ほど浸透してこなかった。経済産業省によると、日本のEC化率(小売市場規模に対するEC市場規模の割合)は6.8%(2019年)と、EC先進国の米国(約15%)や英国(約20%)に比べて依然低い水準にとどまっている。

 しかし、今回のコロナ禍では、外出自粛で消費者が店舗等へ商品購入に出掛けることを制限されたため、物販小売業者は、ECを通じて商品を消費者へ届けることで商いを成立せざるを得ない状況が続き、結果的に、前述の日本型商習慣(【1】~【3】)が見直される契機となった。また、消費者においては、ECの利便性を一度享受したことで、購買行動のECシフトが不可逆的に加速している。

 その結果、国内人口の減少に伴い国内消費需要が伸び悩む中、国内の物流施設の全体の需要(延床面積ベース・ストック)は減少基調が続く一方、EC市場の拡大および宅配便等の多頻度小口配送による輸送件数の増加に伴い、大型物流施設需要(延床面積5,000㎡以上)は、全体の3割超を占める1.4億㎡(2020年)に拡大している。EC向け貨物の特徴として「①大量の取扱商品の入荷・保管・管理、②個単位での管理、③正確な商品選択・箱詰め・出荷対応、④作業の迅速性」、等が必要となり、業務遂行上、広い保管スペース/大型機器導入/複数のトラック接車場、等を備えた施設形態・機能が必要となることから、Amazonや楽天などのECプラットフォーマーを中心に大型物流施設が求められることになる。

 今後、コロナの影響が収束した後も、EC市場は不可逆的に拡大するものと想定されることから、大型物流施設需要の更なる拡大が見込まれる。

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