不動産市場・ショートレポート(8回シリーズ)
アフターコロナでの新しい不動産市場④/賃貸市場(商業施設)

投資調査第2部 研究員   中西 一真

業態別の販売額は、短期で新型コロナ、中期では人口・ECの各影響により、明暗が分かれる。

 国内の小売販売額は、2020年を底に緩やかな回復基調にあり、今後も、外出自粛の緩和や所得環境の改善に伴い回復が続くであろう。ただし、コロナ禍により消費環境や消費志向が激変し、今後も業態により異なる動きが予想される。業態別の販売額は、短期的(概ね1年程度)には新型コロナの影響、中期的(概ね5年程度)には人口動態やEC市場の影響により、明暗が分かれる。以下では、こうした各種要因を考慮し、当社が行った業態別小売販売額の予測結果とその実像を紹介する。

 短期的には、コロナ禍後も外出自粛の傾向が残るため、衣料品を扱う百貨店や衣料品専門店が低迷。なおコロナ禍で収入が大きく減少した世帯がある一方、株式等の資産価値上昇によって購買力を高めた世帯も多い。このため、低価格衣料およびラグジュアリーブランド等が伸長しやすい。また遠方の都心型店舗が厳しく、近隣の郊外型店舗は比較的堅調であろう。加えて駅前やオフィス街に多く立地するコンビニエンスストアも、人流減少により低調となるが、外出自粛要請が解消されれば回復は早い。一方、巣ごもり需要の恩恵を受け、食料品や日用品を扱うドラッグストアおよび食料品スーパーは引き続き堅調。加えてテレワークの進展や在宅時間が延びることで、PC関連や生活家電の支出が増え、家電大型専門店の販売額は増加基調となろう。

 中期的には、団塊世代の加齢に伴い外食機会は減るも、飲食料品や医薬品の支出増加が見込まれる。特にこれら費目はECシフトが進みにくく、食料品スーパーやドラッグストアなどの実店舗の販売増加に寄与する。またコンビニエンスストアは、店舗受け取りや商品特性の違いからECと補完関係にあり、またATMや公共料金の支払いなど社会インフラ機能も高く、販売額を下支えする。他方で生活家電等は世帯当たりで消費されるため、単身世帯の増加で支出増となり、家電大型専門店の販売額にはプラスとなる。ただし国内の世帯数は、2020年代半ばから減少に転じるため、ECシフトも加わり長期的には伸び悩むであろう。衣料品は、支出の少ない高齢者の増加、および支出の多い若年層の減少により、販売額は減少。特に現時点のEC化率が低いため、各種技術やビジネスモデルの開発によりECシフトの可能性が高く、実店舗での販売額は引き続き減少となろう。苦戦が見込まれる百貨店や衣料品専門店では、企業の生き残りをかけ、ショールームとしての機能拡充、フィッティングやアレンジなどサービス面の強化などで、ECとの共生を図る必要があろう。

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