不動産マーケットリサーチレポート最新号 発行 
日本の不動産市場の見通し
 ~不動産価格は賃料上昇を伴い上昇する第2ステージへ~

株式会社三井住友トラスト基礎研究所

 株式会社三井住友トラスト基礎研究所は、国内主要都市の不動産市場の見通しを示した不動産マーケットリサーチレポートの最新号(2014年4月時点調査)を発行した。以下では、不動産マーケットリサーチレポートの要点を示す。
 日本の不動産市場は、金融政策に依拠した不動産価格上昇という第1ステージを終え、賃料上昇を伴い不動産価格が上昇する第2ステージに入った。当面、不動産価格は上昇を続けると予想されるが、2016年以降に想定される金利上昇局面においては、タイプごとのNOIの成長性の違いにより、価格動向に差異が生じる可能性がある。

好循環に向けて動き出した日本経済

 この半年間を振り返ると、日本経済は着実に前進した。2012年後半の政権交代以降、金融緩和により円高が修正され、企業業績は改善、株価は上昇して内需主導の景気回復を実現したが、所得が増加しなければ景気の好循環は難しいと見られていた。しかし、消費増税に何とか間に合うかたちで、賃金のベースアップが実現し、景気の好循環への期待が高まってきた。物価は、足元では円安等によるコストプッシュ型の上昇という色彩が強いが、需給バランスの改善による持続的な物価上昇の芽が出てきた。金融政策は「デフレマインドの一掃」、財政政策は「湿った経済の発火」を目的とした政策であり、景気の好循環のためには成長戦略が不可欠なわけだが、法人税改革や外国人材の活用、女性の活躍推進、国家戦略特区の決定等、徐々に成長戦略が具体化されてきた。改革の果実を得るのは先の話だが、この半年の歩みは、不動産価格の上昇が金融政策に依拠した短期的な上昇では終わらない可能性を高めたと言えるだろう。

不動産価格は賃料上昇を伴い上昇する第2ステージへ

 不動産市場を見ると、強力な金融緩和により、リスクフリーレートは低下、投資家の投資姿勢はリスクオンとなりリスクプレミアムの圧縮が進んできた。これらにより期待利回りは低下し、不動産価格は上昇してきた。そして、需給バランスの改善が進むもののなかなか上昇反転に至らなかった賃料が、ようやく反転を開始した。今はまさに、金融政策に依拠した不動産価格上昇という第1ステージを終え、賃料上昇を伴い不動産価格が上昇する第2ステージの入口に立ったところと位置づけられるだろう。

 主要なセクターであるオフィス市場を見てみると、2013年以降、供給抑制と需要増加の両輪で需給バランスの改善が続き、2014年春には空室率が賃料反転の目安である自然空室率を下回ったとみられる。加えて、企業の賃料負担力が業績回復によって高まり、賃料上昇を許容しやすい状況になってきた。これまでビルオーナーは、空室率の低下に合わせて、募集賃料(希望賃料、出し値)からの値引率を縮小させるかたちで実質値上げを図ってきたが、ここにきて募集賃料の値上げを開始した。今後は、短期的には供給抑制が続くことに加え、雇用回復を背景とした需要増加により、比較的強く空室率が低下していくと予想される。中期的には足元の低金利と市況改善を好感して新規供給が増加することに加え、需要は2度目の消費増税の影響で伸び悩むことで、2016年には空室率が一旦底打ちするが、その後は需要が持ち直して再び緩やかな低下へ向かうと予想される。成約賃料は2015年までは比較的強い上昇、その後は減速するものの上昇は継続すると考えられる。

 賃貸マンション市場については、建設コストと金利の上昇、分譲マンションとの用地取得の激化を主因として、中期的に供給量は低位で推移すると予想される。一方で雇用回復を受けて主要都市の人口の転入超過傾向は継続し、加えて金利上昇で分譲マンションの取得が困難となることで、賃貸需要は堅調に推移すると予想される。主要都市の賃料は総じて堅調に推移し、東京については緩やかながら上昇すると予想される。

リスクプレミアムの圧縮余地

 投資マーケットについては、キャップレートの低下が進んできたことで低下余地は小さくなったが、まだ余地はあると考えられる。日本は長期金利が低位のためイールドスプレッドは比較的高く、更にインフレ率が上昇したため、実質ベースのイールドスプレッド(=キャップレート-(長期金利-インフレ率))は、海外主要都市よりも高い状況にある。相対的に見て対日不動産投資は魅力的と考えられ、海外投資資金の流入は続くと予想される。

 また、リスクを抑制しリターンを高める運用の必要性から、企業年金が中長期的にはオルタナティブ投資を拡大すると考えられる。公的年金がオルタナティブ投資商品に資金を投じてくる可能性が高く、その流れに追随して、不動産投資を選択する企業年金が増える可能性がある。銘柄数の増加、トラックレコードの蓄積、運用対象の多様化等が進むことで、私募REIT市場がこれらの受け皿となり拡大すると期待される。このように見ていくと、リスクプレミアムの圧縮余地はまだあるように思われる。

NOIの成長性の違いが価格動向の差異に

 価格上昇の第2ステージに入った不動産市場だが、第2ステージがいつまで続くかは冷静に見ておく必要があり、金利上昇がポイントの1つと考えられる。長期金利は、将来の金融引き締めを織り込むかたちで2016年には上昇に転じると予想される。前述のように、リスクプレミアムの圧縮余地はあるものの、金利上昇はキャップレートの上昇圧力となり、不動産価格の下落圧力となる。短期的には、良好な資金調達環境とNOIの成長期待から、いずれのプロパティタイプでもキャップレートの緩やかな低下が続くと考えられるが、金利が上昇する2016年以降は、NOIの成長期待の大きいタイプか否かで価格トレンドに差が生じる可能性がある。NOIの成長期待の大きくない住宅や郊外型SCについては、第2ステージの終了時期が他のタイプよりも早くなる可能性があることについて、注意しておく必要があるだろう。

不動産マーケットリサーチレポートのご案内

 三井住友トラスト基礎研究所では、全国主要都市の不動産賃貸市場、不動産投資市場の将来見通しや、その市場特性・動向を「不動産マーケットリサーチレポート」として年2回(6月、12月頃)とりまとめ、販売しています。

レポートの構成

第1章 経済環境編
第2章 不動産賃貸市場 (オフィス編)
第3章 不動産賃貸市場 (住宅編)
第4章 不動産賃貸市場 (商業施設編)
第5章 不動産賃貸市場 (物流施設編)
第6章 不動産賃貸市場 (ホテル編)
第7章 不動産投資市場編
第8章 資産価値変動リスク編

レポートの種類・販売価格

  • レポートには、内容の充実した「本編」、要点を簡潔にまとめた「要約版(日本語版・英語版)」があり、全章セット、章別のいずれでもご購入いただけます。
  • 販売価格については価格表をご用意していますので、投資調査第1部・第2部へお問い合わせください。
  • 2013年度は、J-REITおよび不動産私募ファンドの運用会社、不動産会社、金融機関、リース会社、投信委託会社など24社に提供しました。
  • 経営計画や不動産投資戦略の策定、キャッシュフロープロジェクションの作成、不動産開発事業のタイミングの判断、不動産投融資のリスク管理、投資家等資金提供者への説明等、幅広い用途にご活用いただける内容となっております。

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