深層学習を用いたJ-REIT個別銘柄パフォーマンス要因の分析

REIT投資顧問部 研究員   小西 勝也

要約・概要

  • J-REIT個別銘柄のパフォーマンスに影響を与える要因を定量的に分析する方法としては重回帰分析などを用いた方法が一般的に知られている。しかし、これらの手法は、各要因間の相互作用を分析者が明示的に変数として組み入れない限り考慮することはできず、同時に分析可能な要因数にも制約がある。また、J-REIT個別銘柄のパフォーマンスと要因との関係や、各要因間の関係に非線形性を考慮した分析を行うことは困難であるなど様々な課題がある。
  • 本稿では、そのような課題解決を目的として深層学習モデルを用いた分析を行うこととした。深層学習はその予測、推定プロセスが複雑であるが故に人間には解釈が難しく、モデルの中身がブラックボックス化してしまい、投資運用等の高い説明責任が求められる業務には適さないといった問題が指摘されてきたが、近年は深層学習モデルの解釈可能性を高めるための手法の研究開発が進んでいる。
  • 本稿では、深層学習により、J-REIT個別銘柄のパフォーマンスを各要因から推定するモデルを構築し、株式リターンの予測根拠解析等にも使われているLRP(Layer-Wise Relevance Propagation)手法を用いて、個別銘柄パフォーマンスに対する各要因の寄与度を算出した。その際、期間別での算出も行い、時系列での各要因の寄与度の変化についても確認した。
  • その結果、投資家がJ-REITの投資判断の際に重視している指標は総じてパフォーマンスに対する寄与度が大きいが、その中でも一口当たり会社予想分配金の変化率のプラス寄与が最も大きく、また予想P/NAV等の寄与度も相対的に大きいこと、更に各要因の寄与度は時系列で変化しており、2020年のコロナ禍においては、高収益性や割安感を示す指標よりも財務面での安全性を示すLTV水準の寄与度が大きくなり、また見通しの厳しいオフィス・商業・ホテル等の物件保有比率のマイナス寄与が大きくなるなど、安全性の高さがパフォーマンスに大きく影響していることを改めて確認した。

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