好調続くロンドン不動産市場と今後の見通し

海外市場調査部長 主席研究員     伊東 尚憲

 ロンドン中心部の不動産取引は引き続き活況である。Real Capital Analyticsの資料によると、2009年を底に不動産取引額の拡大が続き、2015年4-6月期は2001年以降で最大の取引額を記録した。7月以降も、インドネシアの投資家Sinar Mas LandによるAlphabetaの取得(金額2.8億ポンド、イールド4%)や、台湾のShin Kong Life InsuranceによるThames Courtビルの取得(金額約2億ポンド、イールド不明)などが報道されており、年間取引額でも過去最大となることが確実視されている。

 世界金融危機以降、世界のセーフヘイブン(安全な逃避先)として英国不動産の人気は高い。新興国の減速傾向が強まり世界経済の不透明感が増す中で、堅調に推移する英国への不動産投資人気は当面、衰えることはないと考えられる。懸念材料を探すとすると、過度な人気に伴うロンドン不動産価格の高騰である。そこで今回はロンドンのオフィス価格の現状と今後について考えてみる。

 ロンドンのオフィス賃貸市場は、景気回復を背景に2013年を底にテナント需要が拡大してきた。新規供給も増加しているが、世界金融危機以降は事前にテナントを確保しないと、建設資金が融資されない運用が行われてきたため、増加ペースは緩やかである。結果、需給は逼迫、ロンドン中心部の空室率は4%を切る水準にまで低下してきており、賃料も上昇傾向を強めている。一方、イールドは、投資需要の拡大で2009年以降低下が続いてきたが、過熱した2007年の水準にまで低下し、横ばいで推移している。キャッシュフローの改善と、イールドの低下によって、現状のオフィス価格は過去最高水準にある。

 今後の見通しを考える上で前提となる経済成長は安定的な推移、長期金利は上昇、消費者物価指数も上昇が見込まれている。オフィス賃貸需給の側面から見ると、需要は比較的安定的に推移するものの、足元の好調なマーケットを受けて、次第に新規供給、それもスペキュラティブ(事前にテナントを確保していない開発)なものが増加することが予想される。このため、2016年以降、需給緩和が見込まれる。需給が賃料に影響するタイムラグもあるため2016年後半以降は、需給要因からは賃料を押し下げる圧力が働きやすくなる。一方、ロンドンの賃料トレンドを決めてきたのは物価である。物価要因からは、ほぼゼロ水準にまで低下している消費者物価指数が2016年以降、1%台後半に回復することが見込まれている。このため、需給要因のマイナスを物価要因のプラスが吸収することで、緩やかな賃料上昇が続くことを予想している。イールドは、投資需要の強さで低下圧力がかかりやすいものの、今後見込まれる金利上昇が押し上げ圧力となる。ただ、金利上昇と見合う形で物価上昇が見込まれており、金利上昇ほどにはイールドが上昇することはなく、若干の上昇があっても概ね横ばい圏で推移すると判断している。結果として、緩やかな収益改善とイールドの横ばいによって、不動産価格は緩やかな上昇が続くことが予想される。

 ロンドンの不動産価格が高値圏にあることは間違いないが、今後も緩やかな上昇が見込まれるため、当面、英国不動産市場の活況が続きそうである。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2015.10.15 No.373」 寄稿)

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