日本と異なる海外の大都市オフィス立地事情

海外市場調査部長 主席研究員     伊東 尚憲

 海外の大都市で企業訪問しようとすると公共交通機関だけではたどり着くことが難しい場所や、たどり着けたとしても何度も乗り換えが必要で、想定以上に時間を要する場所にオフィスがあることも多い。公共交通機関の整備された日本の大都市からすると、なぜこんな場所にオフィスがあるのか不思議に思うが、やはり考え方や制度などの違いによってオフィス立地の観点が異なるためであろう。ここでは、通勤手段と建築規制の二つの観点について取り上げる。

 まず通勤手段だが、東京を初めとした日本の大都市圏では鉄道などの公共交通機関が網の目のように張り巡らされ、多くの人が公共交通機関を通勤手段として利用している。このため、ターミナル駅周辺など公共交通機関の利便性の高い場所ほどオフィス需要も集中することになる。一方、海外では例えばロサンゼルスのように公共交通機関が少なく自動車通勤が一般的な都市や、ドイツやベルギーのように福利厚生の一環で会社から自動車が貸与されるような国もある。またマレーシアなどのように自動車で通勤することがある種のステータスとなっているような国もある。このように自動車による通勤が一般的だとオフィスも大都市中心部だけでなく、都市周辺部の高速道路のインターチェンジ付近や、郊外の住宅地周辺、また緑に囲まれた環境の良い場所などにオフィスが立地することも可能である。逆に大都市中心部にオフィスがあると、道路は渋滞しやすく通勤に時間がかかり、駐車場の確保も容易ではない上に、駐車コストもかかってしまうなど、デメリットが多くなってしまう。

 次に建築規制であるが、これは欧州都市でよく見られるケースである。例えばパリ市内、それも中心部ほど建築規制が厳しく新規の開発が難しい。建物外観の維持が必要で、高さ制限などもある。大規模な改装によって内部はリニューアルできるものの、物理的に床面積を増やすことは困難である。こうした規制によって今も古い街並みが保存されているが、中心部で一定のオフィス床を確保することは難しく、またコストも高くなってしまう。物理的な問題と、コスト的な問題から、従業員が数千人規模の大企業になるとパリ市内に留まることが難しくなると言われている。このため多くの大企業は、一部の本社機能だけをパリ市内に置き、その他の本社機能をパリ市境付近や郊外に構えることが多い。ペリフェリックと呼ばれるパリ市の環状高速道路の周辺で最新のオフィスビルが多く見られるのはこうした理由による。

 日本におけるオフィス立地の観点だけで海外のオフィスを見てしまうと、需要を見誤ってしまう可能性がある。都市中心部での需要は賃料負担力が高く、必要面積の比較的小さい中小規模の需要に限られるが、周辺・郊外には大規模で幅広い需要を期待できる。その一方で、中心部は供給に限界があるため優位性が薄れることは少ないが、周辺部あるいは郊外部はインフラの整備状況や新規供給計画によって、優位性が変化しやすいリスクがある。いずれにしても海外の不動産を見る上では、その国や都市の考え方や制度などの違いを十分に認識しながら見ていくことが必要である。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2016.5.15 No.393」 寄稿)

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