海外不動産市場における新型コロナの影響と今後の見通し

海外市場調査部長 研究主幹     伊東 尚憲

 新型コロナウイルスの感染拡大は世界的に続いており、不動産市場にもさまざま影響があらわれている。ここでは、2020年Q2(4-6月期)の不動産データをもとに当社でとりまとめている海外不動産市場レポートから、オフィス、住宅市場について現状と今後の見通しを紹介する。

 オフィス市場における感染拡大の影響として、①オフィスのあり方検討に伴い企業が様子見姿勢を強めていることによる需要減少、②テナントが余剰床をサブリースすることによる募集面積(供給)の拡大、③工事の遅れなどによる新規供給計画の遅延、などが見られた。数字の上でも、ニューヨーク、ワシントンDC、ロンドン、シンガポールなど世界の主要都市でオフィス賃料の下落が確認される。フリーレント等を考慮した実効賃料で見ると更に多くの都市で下落している。Q1からQ2にかけてネット需要(ネット・アブソープション)がマイナスとなり、空室率が上昇していることが主な理由である。今後の市場を考えると、工事遅延や事前のテナント確保ができず開発計画が見直されることで新規供給予定面積が縮小することはプラス材料である。その一方で、オフィス需要は引き続き弱含みで推移することが予想される。在宅勤務が広がる中、オフィスをどう位置付けるのかなど、テナントによるオフィス賃借スペースの再考が広がっている。オフィス縮小を検討する企業がある一方で、安全でクリエイティブなスペース確保のために一人あたり面積や共用部拡大を打ち出すケースもあり、企業は今後を模索している状態である。今後、パンデミックがどのように収束していくのかは依然として不透明で、今のところ企業の意思決定は積極投資を行わない保守的なものが優勢と考える。このため、当面はオフィス需要拡大を見込めず需給緩和と賃料調整が続くことを予想した。賃貸市場の調整でキャッシュフローの悪化が見込まれるため資産価値についても下落を予想している。

 住宅市場(賃貸市場)について、成熟した市場のある米国で確認すると、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ワシントンDCなど多くの都市でQ2の空室率は上昇し、賃料下落が見られた。昨年までの好調な市場をうけて大量供給が行われたことが空室率の上昇要因となった都市が多いが、高額賃貸物件の多いニューヨークではネット需要がマイナスとなり空室率が上昇している。当面、高額賃料帯のものは苦戦が予想される一方で、一般的な賃料帯のものは比較的早い底打ちが見込まれるため、新規供給動向含め、都市による二極化が進む見通し。

 住宅売買市場では、ロックダウン等の影響で内覧などの取引活動が制限されたことから需要は停滞し、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロンドンやシドニーなど世界各地でQ2の住宅価格下落が確認された。引き続き、経済や雇用など先行き不透明感が強いものの、ロックダウン解除によって売買活動は徐々に動きだしている。加えて、低水準の住宅ローン金利や住宅価格低下、そして英国の取得税減免措置などに見られるように政策として住宅取得促進策が打ち出されやすいこと、などによって住宅需要は顕在化しやすいものと考える。住宅価格の底入れはオフィス等の事業用不動産と比べて早いタイミングになると予想している。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2020.9.15 No.542」 寄稿)

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