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不動産価値評価を次のステージへ

2013年10月28日

 投資調査第1部 研究主幹 北村 邦夫

 筆者は20年前までは建築家をめざして建物を建築作品として捉え、その空間設計に専心していた。その後は、建物を不動産と捉え、資産としてあるいは事業としての経済的価値を検討する仕事に携わり今日に至っている。この間、我が国では不動産価値の評価法がパラダイムシフトしたことは周知の通りである。さらに近時では、省エネ性能、耐震性を始めとする安全性等の新たな要素に対するユーザーの要求レベルが高度化しているため、将来のキャッシュフローの産出力に影響を及ぼすそれら要素を不動産価値に的確に織り込む方法について実証分析など様々な検討が行われている。


 さて、かつて大学の建築学科で学んだことを思い出すことが時々ある。建築論の教科書にあった古代ローマの建築家であり建築理論家であったウィトルウィウスは、良い建物は用・強・美の3つの条件によって成立すると唱えた。用とは機能、快適性であり、強とは構造体としての堅固さであり、美とは感覚的な優雅さと共に寸法の比例関係に代表される理性的側面をも意味している。美に感覚と理性の両面での理解を含んでいる点がギリシャ思想の影響を受け継いでいる特徴である。現代の様々な用途の建物においても、そのバランスは異なれど3つの要素を備えていることは共通であろう。ところが、不動産としての価値評価において、用と強については時代変化に応じて新しいニーズが反映されつつあると考えられるが、美については的確に評価されているとは言い難く、その方法論についての議論すら置き去りにされている感がある。資本の論理との隔たりが大きいということであろうか。


 言うまでもなく、不動産は単体で成立しているのではなく、周囲の環境とのインタラクティブな関係の中で成立している。一定のまとまりであるエリア、さらにその集合体である都市の魅力は個々の建物とそこで行われる人々の様々な活動が織りなすものである。その活動の質を高める1つの触媒として美が機能すると考えられる。そこで、現代に求められる美とは何か。例えば、感覚面の美としては、優雅さではなく人々が欲する活動の舞台背景として、活動をより活性化させる空間の雰囲気と解釈して良いのではないだろうか。さらに、理性面の美としては、寸法の比例関係ではなく、その時代ごとの社会や共同体の意思や思想と解釈できるのではないか。その意思や思想の積み重ねが都市の独自の文化的魅力を形成し、目まぐるしい経済環境変化の中にあってもぶれない1つの個性となっていくと考えられる。これは、一朝一夕には成らず、建物のオーナー(ファンドを通じた投資家も含む)と利用者が価値観を共有して協働を継続していく中で実現する。


 成熟社会を迎えている我が国にあって、都市競争力を高めていくには、用と強だけでなく現代の美を追求した不動産、その集合体である都市づくりを指向することが1つの有効な方策となろう。現在の超金融緩和による潤沢な資金を誘導・活用するためにも、不動産価値の評価について、新たな美の要素を反映させる次のステージに進んでいくことが有効と考えるがいかがであろうか。


(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2013.5.15 No.288」 寄稿コラム)

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