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2017年不動産・インフラ市場の見通しと注目点

2017年01月10日

 株式会社三井住友トラスト基礎研究所

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 2017年の不動産市場は、高値圏での価格の推移を予想するが、世界の政治、経済、金融市場の不確実性は高く、視界不良の状況にある。不動産の実需や投資需要は堅調なものの、賃貸・売買取引の動向、賃料・価格の動向は、需要サイドの慎重姿勢を強く反映したものになると予想している。


2017年の国内不動産市場

投資調査第2部長 主席研究員
坂本 雅昭


 上昇を続けてきた国内の不動産価格は、2017年にはほぼ横ばいで推移すると予想している。運用難の中で不動産に対する資金需要は引き続き旺盛ではあるが、2016年前半の金融市況の軟調によって投資家のセンチメントは慎重姿勢に変化しており、金利も既にマイナス金利政策が導入されていることから一層の低下は見込みづらい。加えて、NOIの成長期待は引き続きあるものの、高まる状況にはない。このように、期待利回りをさらに引き下げる条件に乏しいことから、期待利回りは横ばい~やや弱含みで推移するであろう。しかしその一方で、NOIが悪化するような状況にもない。企業業績や雇用情勢の好調を背景に企業や個人の不動産需要は堅調に推移し、NOIの緩やかな上昇は続く。横ばい~やや弱含みの期待利回りと、緩やかに上昇するNOIにより、価格はほぼ横ばいで推移するとみている。ただし、想定外の金利上昇、世界の政治の不安定性、為替変動による資金動向・企業業績の変動、金融機関の不動産融資姿勢の変化、バーゼルⅢの動向など、不動産市場を取り巻くリスク要因は多く、メインシナリオからの乖離には注意を要する。
 不動産市場のメインセクターである東京オフィスにおいては、2017年は「2018年から続く大量供給期の前年」にあたる。新規供給は2016年の6割程度と少ないが、企業には賃料支払額を増やしたくない意向が強いことや、2018年以降の大量供給による市況変化を様子見する姿勢が出てくることで、需要の増勢は鈍化する。供給、需要ともに動きが少ない中で、空室率は低水準でほぼ横ばい、新規成約賃料は引き続き上昇するが上昇ペースは鈍化すると予想している。注目されるのは、ホテル市場と物流施設市場。大都市のホテルの稼働率はやや低下してきているが、宿泊料金の調整によって減少または地域分散した宿泊需要を回復させ、ホテル事業収益が再び拡大基調に戻るか、注目される。物流施設市場では過去最大の新規供給が続くため、空室率の上昇が続く見通しだが、人件費などの物流コストが上昇していることから、予想以上に需要が伸びない可能性もあり、注意を要する。


2017年のJ-REIT市場

REIT投資顧問部長 研究主幹
河合 延昭


 J-REIT市場は、金融緩和継続による低金利環境のもとで概ね堅調に推移するとみている。J-REIT投資法人の運用状況では、外部成長よりも内部成長が中心となって着実な分配金成長を持続すると予想。また、基本的には、日銀の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)による10年国債利回りの安定のもと、利回り魅力に着目した資金流入は継続するとみている。ただし、経済・金融市場の先行き不透明感の高まりや、長期金利の変動に敏感な市況となることも想定され、注視が必要である。
 J-REITの分配金は、賃料上昇による増収に加え負債コストの低減も貢献、内部成長が牽引することで成長を持続すると予想。主要セクターであるオフィスでは、賃料増額改定やテナント入替による賃料上昇が継続するとみる。ただ、2018年にかけては稼働率上昇やエネルギーコストの減少効果が一巡することで、徐々に増益率が鈍化する可能性もある。また、年後半からは、2018年以降のオフィスの新規供給増の影響度が注目点となろう。一方、J-REITの予想配当利回りは、足元3.5%程度と1年前とほぼ同水準ながら、10年国債利回りとの利回り差(イールドスプレッド)は3%台半ばへと拡大している。世界的な金利上昇が国内長期金利とJ-REIT配当利回りの上昇圧力となる懸念が高まれば、イールドスプレッドが縮小しづらく、あるいは拡大するリスクもあり、金利動向には引き続き注視が必要である。
 J-REITの物件取得については、不動産価格はしばらくの間高値圏で推移するとみられること、また昨年来、取得物件の質・価格に対する市場の目は厳しさを増していることから、規模拡大途上にある投資法人の取得意欲は引き続き強いと思われるものの、全体としてはスピードが鈍化していくと予想。一方、運用資産の質・収益性改善を企図した資産入替の取組みは昨年同様、継続するとみている。


2017年の国内不動産私募ファンド市場(含私募REIT)

私募投資顧問部 副部長 主任研究員
前田 清能


 2017年の国内不動産私募ファンド市場規模は、横ばいから緩やかな縮小で推移するとみている。緩和的な金融環境の継続を背景に、私募REITや不動産私募ファンドに対する国内外投資家の旺盛な投資意欲は継続するものの、取引市場において供給される投資適格物件が引き続き限定的となることに加え、金融緩和の継続により一部のJ-REITの物件取得意欲は依然高いことが予想され、私募REITや私募ファンドによる物件取得環境は厳しい状況が続くものと考えられる。
 2017年の注目点の一つに、国内公的年金やゆうちょ銀行等、大規模な機関投資家による不動産投資動向が挙げられる。これらの投資主体が不動産投資を検討していることは2016年内の報道によって周知の事実であるが、これまで不動産投資を行っていなかったこれらの投資資金が不動産投資市場に向かうことで不動産投資市場が一層の活況を呈し、その他の投資家が追随することで不動産投資市場により多くの資金が流入する可能性がある。また、二つ目の注目点は、国内金融機関による不動産融資動向である。過去には不動産投資市場の変調が、市場過熱期における金融機関の不動産融資姿勢の急変とそこから派生する急激な信用収縮によって引き起こされていることを忘れてはならない。
 私募ファンドによる物件取得の動向や、エクイティ投資家および金融機関による不動産投融資動向を注意深く観察することで、不動産投資市場の過熱感を慎重に見通すことが2016年以上に重要となる。


2017年の海外不動産市場

海外市場調査部長 主席研究員
伊東 尚憲


 2017年の海外不動産市場は停滞色、調整色の強い一年となる見通し。都市によって状況は異なるものの、主要国のオフィス賃貸市場は、総じて各国経済成長の鈍化とオフィス移転の一巡などによる需要の停滞と、ここ数年市場環境が良好であったことに伴う新規供給の増加によって需給が悪化し、賃料に下押し圧力がかかりやすい。投資市場では、不動産価格への高値警戒感や長期金利の上昇、キャッシュフロー成長期待の鈍化などもあり、低水準にあるキャップレートは横ばいあるいは上昇に転じやすくなっている。多くの都市で、不動産価格は循環的なピーク前後にあることに加えて、欧州の政治リスクや金融リスク、米国の政策リスク(下方リスクだけでなく当面の経済成長上振れの可能性も)、中国の経済・金融リスクなど、投資マインドを変化させやすいリスク材料が今年も多く、価格調整に至りやすい環境にある。都市別では、ロンドンやシンガポールは価格調整継続、ニューヨークや香港、上海は停滞色が強まり、ベルリンやストックホルム、シドニーは鈍化しつつも成長を見込んでいる。
 世界の不動産取引量は、減少に転じた2016年の流れを継続する見込み。投資家の不動産投資意欲は引き続き強いと考えられるものの、価格調整との見合いとなるため取引が成立しづらく、取引量は伸び悩む見通し。その一方で、投資資金は投資機会を求めて、流動性には劣るものの過熱感の少ない英国や米国の地方都市、南欧や北欧、豪州の主要都市での取引を拡大させる可能性がある。用途もオフィスや商業施設といった伝統的なものから、賃貸住宅(単身者向け住宅・高齢者住宅など)や物流・産業施設へのシフトを強めるものとみられる。


2017年のPPP・インフラ市場

投資調査第1部 主席研究員
福島 隆則


 国内のインフラ市場は、まず公共インフラについては、昨年からのコンセッション方式を活用した民営化の動きが、今年も空港を中心に進行するだろう。今年は、高松、神戸、福岡、富士山静岡の各空港で運営権者選定プロセスが、新千歳など道内空港や広島、南紀白浜、熊本の各空港では民営化に向けた検討が進む見込みである。
 空港以外の公共インフラでは、浜松市の下水処理場で運営権者が選定される予定であるが、水道分野全般での民営化の動きは鈍い。一方で昨年から、クルーズ船ターミナル、スポーツ施設、公営ガスなど、コンセッション方式の活用検討分野に広がりが見られるが、こうした傾向は今年も続くだろう。
 ただ、公共インフラでは、インフラファンドなどの金融投資家が参加できる市場が未形成なため、今後はSPCエクイティの流動化を促す施策などが望まれる。その意味において、必ずしもコンセッション方式である必要もなく、アベイラビリティ・ペイメントやシュタットベルケ型モデルなど、さまざまな取組が期待される。
 次に民間インフラについては、昨年2つのインフラファンドが上場し、今年もその流れは続く見込みだが、投資市場全体へのインパクトは限られるだろう。今後は、非上場インフラファンド市場の拡充や、太陽光以外の再生エネルギー、蓄電池、パイプライン、通信施設など投資対象の広がりも望まれる。
 最後に海外のインフラ市場は、インフラの新設・更新ニーズの強さ、投資家側のアペタイトの強さなどを背景に、引き続き活況が予想される。一方でクロスボーダーの案件については、保護主義とポピュリズムの台頭による“政治リスク”に留意が必要となるだろう。

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