今後の米国インフラ投資~トランプ氏への期待~

投資調査第1部 副主任研究員   田中 可久

 ドナルド・トランプ氏が米国大統領選に勝利した。その影響は、選挙前から、経済、金融、移民問題など、さまざまな観点で分析がなされているが、話題になりつつあるインフラ投資(整備)の側面ではどうだろうか。

 インフラ投資に関しては、対立候補であった民主党のクリントン氏やサンダース氏が積極的で、それぞれ5年の投資額で2,750億ドル、1兆ドルという規模に加え、道路や鉄道、空港など、分野ごとの政策を提示していた。一方、トランプ氏は、選挙期間中、政策アドバイザーであるカリフォルニア大学のピーター・ナバロ教授や投資家のウィルバー・ロス氏らとともに、民間からの資本調達を含め、10年間で1兆ドルの投資を標榜していた。なお、選挙後に政権移行チームが開設したホームページ(https://www.greatagain.gov/)では、5,500億ドルをインフラに投資するとされているが、財源などの詳細は提示されていない(本稿執筆時点)。

 本来、トランプ氏の属する共和党は、政府の関与・権限を抑制する「小さな政府」を掲げており、インフラ投資に関しても官民連携推進には積極的とされるが、財政支出の拡大には懸念を示していた。実際に、2016会計年度(2015年10月~2016年9月)の米国財政収支は、5,874億ドルの赤字で、5年ぶりに悪化。今後の財政負担軽減は大きな課題となっている。

 さらに、インフラ資産の実態として、「American Society of Civil Engineers(米国土木学会(ASCE))」が4年に一度発表するインフラ整備状況に関する評価(「Report Card」)では、2013年版の全体平均として『D+』のグレードが付与されており、芳しくない。グレードは、A(Exceptional:優良)、B(Good:良)、C(Mediocre :普通)、D(Poor:劣化)、F(Failing/Critical:不適格)に区分され、全体平均と各16分野に付与。分野ごとに評価差異があり、例えば、リサイクルなどが進む廃棄物処理関連(Solid Waste)は『B-』であるのに対して、航空関連(Aviation)や道路関連(Roads)は『D』の評価である。州ごとには、今年2016年に更新されているものもあり、選挙の激戦区で話題になったフロリダ州では全体平均で『C』、ニューヨークに隣接する小規模のニュージャージー州では『D+』となっており、地域差があることにも注意が必要である。

 ASCEの全米評価は2017年に更新予定であり、前回までは3月に公表されていることから、大統領就任(2017年1月)後すぐに現況が把握できそうである。1998年からのグレード推移は、D、D+(2001年)、D(2005年)、D(2009年)、となっており、民主党のオバマ政権下でも積極的な投資が出来なかったことを考えると、厳しい評価が予想される。また、今年2016年に、同じくASCEから公表された「Failure to Act(2016年版)」というレポートにおいては、主要インフラ分野における投資不足額(Investment Funding Gap)が推計されており、2016~2025年までの道路・空港・上下水道などにおける必要投資累計額が約33,200億ドルに対して、不足累計額は約14,400億ドル、不足割合は40%を超える見込みとされている。

 一部のニュースなどでは、トランプ氏の大統領就任により、インフラ投資の拡大がそのまま公共投資の拡大と受け取られている側面もあるが、前述のように公共部門による単純な支出拡大は難しいと思われる。当初、トランプ氏の陣営が提示していたような民間資金の活用はより重要性を増してくるはずであり、投資を「いくら増やすか」も重要だが、「どこにどのように増やすか」に注目して、トランプ次期大統領の出す「Trump Card(切り札)」に期待したい。

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