米国インフラ投資(整備)における情熱と冷静の間

投資調査第1部 副主任研究員   田中 可久

 2017年2月、米国最大級の「Oroville dam(オロヴィルダム)」の放水路が破損し、住民への避難勧告が行われたことが日本でも話題になった。その騒動から約1ヶ月後の3月9日、American Society of Civil Engineers(米国土木学会)において、インフラ整備状況に関する最新評価(「Report Card 2017」)がリリースされた。この評価は概ね4年ごとに更新されており、今回、全米平均として「D+」のグレードが付与されている(前回2013年版と同様)。このグレードは、A(Exceptional:優良)、B(Good:良)、C(Mediocre :普通)、D(Poor:劣化)、F(Failing/Critical:不適格)に区分され、全米平均と各16分野に付与。全米平均の「D+」は芳しい評価ではないものの、分野ごとに差異があり、同じ交通分野でも、航空関連(Aviation)や道路関連(Roads)が「D」であるのに対して、鉄道関連(Rail)は「B」の評価となっている。ちなみに、ダム関連(Dams)は「D」と低い評価である。

 これら脆弱とも言える米国のインフラ整備の現状に対して、トランプ大統領は選挙期間中から、大規模なインフラ投資(整備)を掲げ、注目政策の一つとなっている。しかし、現状(本稿執筆時点)では、「道路や空港、鉄道等に総額1兆ドル規模の投資」という情報以外に具体的な政策は出てきていない。また、この1兆ドルという投資規模は、政府支出のみで賄うことは難しく、従前の大統領の政策アドバイザーや運輸長官の発言等からも、「官民連携」での投資規模と推測される。

 実はこの「官民連携」という視点においては注意が必要である。米国のインフラ資産自体は、インフラファンドにおいて投資ニーズが大きく、収益面でも期待できる空港やパイプライン等、多くの投資対象が存在する。しかし、「官民連携」、いわゆる「Public Private Partnership(PPP)」という視点においては、その取組で先行する英国や豪州と比較すると、高速道路等の一部の分野を除き、制度面・投資(整備)規模とも遅れている。原因としては、分野ごとの規制や州政府ごとの権限が強く、連邦政府レベルでの包括的な法制度が整備されてこなかったこと等が挙げられる。

 ただし、これらは見方を変えれば、今後の制度整備や取組方法によっては、経済規模からしても、拡大可能性のある市場と捉えることができ、民間による投資や事業参画の観点からも期待が持てる。実際、収益性のある経済インフラ(送配電網、パイプライン等)については、非上場ファンドや上場インフラ会社により、継続的な投資がなされている。また、近年、オバマ政権時代の政策である「Build America Investment Initiative」において整備された交通分野や水分野等における省庁横断的な組織は、改めてPPP取組への重要性を認識する機会となったはずである。

 今後のインフラ投資(整備)に関しては、トランプ大統領の掲げる米国第一主義や強いアメリカへの「情熱」に加え、前政権時代の遺産の活用や民間事業者・投資家との連携を含めた効率的な体制づくりへの「冷静」さを兼ね備えた取組が重要となる。政権移行100日(4月29日)の節目を迎えたトランプ大統領に期待したい。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2017.4.25 No.426」 寄稿)

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