Grass roots ~米国インフラ整備への草の根アプローチ~

投資調査第1部 副主任研究員   田中 可久

 米国連邦政府にかかる債務上限問題が、8~9月の議会休会(夏休み)前から再び顔をのぞかせている。この問題は、2011年、2013年に顕在化し、国債の格下げや一部政府機関の閉鎖を招いた。3月16日には停止していた債務上限が復活しており、政府系基金による投資停止等の臨時措置が9月29日まで継続。2017会計年度が終了する9月末に向けて、調整が進められている。

 もちろん、財政問題は連邦政府に限った話ではない。金融危機後のデトロイト市(ミシガン州)破産が記憶に新しいが、足元でも事態は深刻である。まず、ヘッジファンド界隈で問題(大量の債券を保有)になっている5月のプエルトリコ(自治連邦区)における破産申請。債務総額は700億ドル以上と言われ、2013年に破産したデトロイト市の約180億ドルと比較してもかなり大規模である。さらにイリノイ州でも危機が迫っており、Standard & Poor's、Moody'sとも、投資不適格の一歩手前まで格付を下げている(本稿執筆時点でそれぞれBBB-、Baa3)。イリノイ州の格下げは、議会対立が発端となっているものの、財政状況は以前から地元製造業衰退による税収減等で厳しく、全米50州としては初の連邦破産法9条適用もささやかれている。

 これらの財政問題は、昨今話題のインフラ整備にも影響が大きい。実際にプエルトリコでは、電力公社(PREPA)等に対して債権者から厳しい対応を迫られており、将来的な資産売却等につながる可能性もある。インフラ整備に関しては、民間事業者が主導する一部の経済インフラ以外、官民連携(PPP)を掲げていても、公的部門の関与は必須であり、特に米国においては州・地方政府の位置づけは重要である。トランプ大統領によれば、インフラ整備等への財政支出のうち、連邦政府によるものは1/5程度とされており、議会予算局(CBO)による2015年の報告書(「Public Spending on Transportation and Water Infrastructure」(不定期更新))でも、交通・水分野の財政支出の内訳(2014年度分(管理運営費含む))は、全体で4,160億ドルのうち、連邦政府によるものは960億ドル、州・地方政府によるものは3,200億ドルとなっている。ちなみに当該報告書で2003年度と比較した2014年度の交通・水分野における実質ベースの支出は9%減少(GDPシェアも5%減少)しており、近年のインフラ整備の必要性に応じた水準とは言いがたい。

 以上のような現実を踏まえると、インフラ整備に関して、トランプ大統領(連邦政府)に期待したいが、頼りにすると前には進めない。とは言え、合衆国(United States)と言うくらいで、州ごとに法規制は多種多様であり、PPP関連規制についても統一的に全米各州で法整備がなされているわけではない(全米州議会議員連盟(NCSL)によれば2016年2月時点で、38州及びD.C.とプエルトリコはPPPに関連する個別の法制度を整備)。要するにPPPに関しては、テイラー・メイドな対応が必要となるわけだが、参画する民間事業者からしても悩ましい部分である。しかし、ここであえて言及したいのは、日本の民間事業者や投資家による州・地方政府に対する「草の根(Grass roots)」レベルでの取組機会探索の重要性についてである。2017年に入ってからは、日本PFI・PPP協会や国際協力銀行等による個別覚書をはじめ、政府のタスクフォースでも、州・地方政府レベルへのアプローチの重要性を標榜しており、7月13日には日米関係強化に関する行動計画も示された。日本政府の行動計画は、現状、イベント開催等のソフト面での取組案が目立つが、カリフォルニア州やワシントン州のように以前からインフラ整備関連を含む協力覚書等を交わしている先もあり、今後は是非、活用範囲を広げて、具体的な事業参画や投資機会を探る契機としていただきたい。

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