Society 5.0における"まち"づくり ~逆算からの規制刷新~

投資調査第1部 副主任研究員   田中 可久

 2017年6月、「未来投資戦略2017(Society 5.0の実現に向けた改革)」が閣議決定された。しかし、その「Society 5.0」(第4次産業革命を取り込んだ新しい社会)を支える"まち"、すなわちリアルな社会基盤には課題が山積している。足元では、「都市のスポンジ化」(空き家等の低未利用空間発生問題)への対策や、大量更新時期を迎える公共施設・インフラの再編等が代表的であり、公共部門としても、多数の施策を講じているものの、今後も多くの労力と資金が必要とされる見込みである。

 さらに、現実の"まち"づくりを考えると、日本においては従来、地方公共団体による都市計画を原則としており、都道府県・市町村策定のマスタープランをもとに、土地利用規制や都市施設(公共施設・インフラ)の配置等が定められる枠組みが存在する。一方、住民や民間事業者等の"まち"づくり参画は、古くは都市計画法・建築基準法における地区計画からはじまり、近年の都市再生特別措置法制定に伴う都市計画提案制度導入等を経て、モデルとなるような事例も出てきたが、既存マスタープラン上の一定区域内の活性化を目標としたものが大半である。

 これら"まち"づくりの現実の中、今般の第4次産業革命が及ぼす影響の1つとして、従来のリアルな境界(行政区画等)が希薄化する側面が挙げられる。IoTによる公共施設や地域エネルギーの統合管理、AIやシェアリングによる新たなモビリティの構築等によって、従来の境界の意味合いは薄れ、「Society 5.0」において住民や民間事業者等はより快適な"まち"づくりのツールを入手することになる。ただ、そこでは従来の行政区画における都市計画等の規制と向き合うことになる。"まち"づくりへの各種特区制度活用も想定されるが、やはり期待されるのは一定区域内への効果であり、本来はマスタープランのような素地から再構築することが望ましい。もちろん、財政制約がある中での"まち"づくりは長寿命化対策等が優先するものと思われるが、「Society 5.0」を標榜するのであれば、人口減少等の社会・経済環境の変化に応じた将来像について行政区画等を越えた視点でマスタープランを再構築し、そこで求められる規制は何かという逆算の発想も改めて考慮すべきである。第4次産業革命をチャンスと捉えるか、それとも従来規制下のマスタープラン上での工夫で乗り切るか、公共部門のみならず住民等を含めたステークホルダー全体で真剣に議論する時期が到来している。

 直近、日本都市計画学会等で米国初の縮退型都市計画と言われるオハイオ州ヤングスタウン市に関する論文を目にする機会があった。同市の都市計画はラストベルトでの産業衰退や人口減少等の影響を受けながらも、大学やNPO等を中心にマスタープランを再構築し、実践に移している数少ない事例である。今後日本ではこれらを規範としつつも、「Society 5.0」を見据えた独自の"まち"づくりを探索するとともに、各省庁においては「未来投資戦略2017」で掲げている「実証による政策形成」の視点を聖域なく追求し、サンドボックス(現行法規制の一時的な緩和・停止)の活用余地を可能な限り広げた大胆な規制「刷新」の機会を求めたい。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2017.10.5 No.442」 寄稿)

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