「日本の中心("中信")で、これからの"田舎"を考える」~地方都市における"資源"の棚卸しの重要性~

投資調査第1部 兼 PPP・インフラ投資調査部 主任研究員   田中 可久

 個人的な話で恐縮だが、筆者にとって愛着のある"田舎"(母方の実家)の話題に触れてみたい。場所は、長野県安曇野市(旧東筑摩郡明科町)、篠ノ井線明科駅からほど近い山中にある。最近では、JRのダイヤ改正に伴う停車駅減少でニュースにも取り上げられた中央本線の特急「あずさ」終点の松本駅から2駅、北アルプスを臨む温泉や日本有数のわさび畑などを有する"中信"(長野県を四分割した場合の中西部)と呼ばれる地域である。そんな愛着のある"田舎"の安曇野市も、近年は、他の地方都市と同様、人口減少問題と合わせ、公共施設などの廃止・統合に関して頭を悩ませている。

 多くの地方都市にとって、人口減少下での歳出削減は重要であり、その手段として、公共施設やインフラなどの公共"資産"のあり方を検討することは喫緊の課題である。ただ、人口・産業などの基盤が必ずしも充実していない地方都市においては、歳出削減と並行して、将来の持続可能性にも配慮すべきであり、機械的に公共"資産"の廃止・統合のみを議論することには疑問が残る。まずは、器となる"資産"を取り巻く、地域の"資源"(ヒト(人口基盤)・モノ(自然・遺産など)・カネ(産業・財政基盤))を見つめ直し、その利活用方法を検討することも、重要課題として位置付けるべきではないだろうか。

 ここで1つの事例として、安曇野市にある公共宿泊施設の「長峰荘」を取り上げてみたい。同施設は、老朽化などを原因に、2017年3月に譲渡または廃止の方針を掲げた後、紆余曲折を経て2019年1月に民間譲渡の方針が固まった。募集要項は、地域住民・関係者との協議も踏まえ、宿泊事業などを10年間継続するという条件付で、最低譲渡価格0円という、やや思い切った内容となった。この「長峰荘」、なかなかの古い宿(木造2階建・1971年築)なのだが、北アルプスを臨む高台立地で景観は良好、また、老朽化のため上手く活用されていないが温泉を引くことも可能である。これだけ聞くと、発想次第で、観光"資源"としての利活用において、民間の事業機会も見込めそうである。実際、募集には2社が応じ、3月には県内の宿泊関連事業者が譲渡先候補として選定された。

 この事例から考えたいことは、"資産"の処分の前に、"資源"の最適な利活用について十分な検討ができていたかという点である。確かに、施設廃止などではなく、地元住民・関係者との協議を踏まえた上での条件付譲渡という選択肢を採用したことには一定の評価ができる。ただ、安曇野市やその周縁地域には、観光関連をはじめとした"資源"が充実しており、近年伸びている外国人延宿泊者数(松本・安曇野市を含む日本アルプス地域:89,990人(2012年)⇒376,733人(2017年)(外国人延宿泊者数調査(長野県)))などへの施策を含めた戦略的かつ横断的な取組について議論ができていたか。人や予算に限界がある中で、戦略的な取組を検討することは難しいかもしれないが、横断的という視点においては活用できる材料があったのではないか。例えば、松本広域連合(松本・安曇野市を含む3市5村による広域行政圏施策の後継組織)が委託した松本地域観光動態調査(2015年)における、携帯基地局情報による人流データなどの利活用もその1つであろう。

 人流データなどのビッグデータの利活用は、ここ数年、民間部門で急速に進んでおり、公共部門でも観光やスマートシティ関連での事例が散見されはじめている。まちづくりという視点でも、さいたま新都心での街頭カメラを活用した人流データ取得に関する実証実験や、2019年2月に公表された「スマートシティの実現に向けた提案募集」においても、ビッグデータの利活用などを含めて、多くの地方公共団体・民間企業で検討が進められている。ただ、地方公共団体による検討は、大都市周辺や既に先進的に取り組まれている団体によるものが多いのも実情である(ちなみにスマートシティ関連の提案があった61の地方公共団体のうち長野県は伊那市1市のみ)。スマートシティやスーパーシティなどの構想は、戦略的かつ分野横断的な取組として、「Society 5.0」実現に向けた観点からも、大変素晴らしい施策である。しかし、これらの施策は、データ連携やシステム共通化などにおいて、一定の圏域を想定してこそ、機能するものであり、小規模な"田舎"の限られた行政区域では機能しにくい面も多い。そのため、分野横断的のみならず地域横断的な発想で、地域の"資源"が在庫とならないよう、最適な利活用方法を検証することが重要であり、それらが地方都市の持続可能性につながっていくことを期待したい。

参考文献:田村 秀「地方都市の持続可能性」(筑摩書房)(2018年11月)

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