令和元年台風第15号から考える住民・地域産業視点でのBCP
~既存テクノロジーの活用と再考すべき地域行政体制~

投資調査第1部 兼 PPP・インフラ投資調査部 主任研究員   田中 可久

 2019年9月に首都圏を直撃した台風15号によって、送配電設備を中心に、通信関連や水道関連設備等で大きな障害が発生した。特に、千葉県東部・南部(山武市、君津市、南房総市等)における被害は大きく、当該地域を含む千葉県の停電軒数はピーク時で60万軒を超えた。まずは、被災者各位へのお見舞いを申し上げたい。今回の台風による被災に関しては、復旧活動の遅延に関するニュースが大きく取り上げられ、電力会社等への批判も見られる。もちろん、インフラサービスを提供する電力会社等の責任は、一般の民間企業に比べれば重いのだろうが、批判等を展開するだけでは、本質を見逃すことになる。ここで、復旧活動の妨げになった要因について、以下の2つに注目したい。

◆被災情報の把握・共有に関して

 まず復旧活動に関しては、早期における被災情報の把握と共有の重要性が挙げられる。例えば、電力会社の管轄下にある送配電設備に対して、土砂崩れや倒木等の被災情報は主に市町村に集約されるが、今回その被災情報の把握・共有について課題があった。首都圏下で東京都に隣接する千葉県だが、県の東部・南部は農業等が盛んなものの(2017年都道府県別農業産出額第4位(農林水産統計))、小規模な市町村が多く、一定の人口密度を有する人口集中地区(DID(人口密度が4,000人/k㎡以上等の条件))はほとんどない。そのため、住民が少ないエリアにある送配電設備周辺の被災情報を把握しづらい状況が形成された。また、電力会社や千葉県に被災情報を提供・集約する各市町村の人的・予算的制約も大きく、従前に経験の少ない突発的な災害に対して適切な連携体制を構築することも難しかった。

◆意思決定プロセスのあり方に関して

 さらに復旧活動の展開には、ヒト・モノ・カネを配分する意思決定プロセスがシンプル(承認が少なく迅速)であることが重要である。例えば、送配電設備の復旧は、原則、電力会社の責任・負担となるが、設備復旧を妨げる土砂、倒木の除去等は、公共部門の責任・負担が一般である。一方、前述のとおり、小規模な市町村が多く、人的・予算的制約も大きいため、民間企業と公共部門の連携体制構築(関西電力と和歌山県の「災害時における停電復旧作業の連携等に関する協定」等が参考)や、より上位団体である国や県の迅速なサポートが必要となる。しかし、実際は、電力設備に接近した樹木(掛かり木)を県や市町村の判断で伐採できない等の状況や、県から市町村への職員派遣の遅れ、備蓄発電機がほとんど活用されない等の事態が見られた。

 少なくとも前述のような要因から生じる課題は、今後も国内各所で想定されるものである。また、自然災害が急に減少することも考えづらく、事実、2018年度の風水災(地震除く)による損害保険の支払保険金は1兆5,000億円を超え(一般社団法人日本損害保険協会)、1970年度以降で最大となっている。そのため、防災・減災におけるハードの観点からの国土強靱化に加え、復旧活動の速度を上げることも地域経済活動の機会損失を軽減する観点から非常に重要となる。すなわち、住民や地域産業の視点におけるBCP(業務継続計画)の構築である。現状、地方公共団体は災害時における活動維持・再開に視点をおいたBCPを策定しているが(2018年6月時点で策定予定を含めて市町村では89.4%(総務省消防庁))、果たして、住民・地域産業視点で機能する内容なのかは、今回の復旧活動を通して疑問が残る。ここで、短期的な視点と長期的な視点から、BCPに関するソリューションを提起したい。

◇テクノロジーの連携活用(短期的視点)

 送配電設備等に関しては、無電柱化・電柱地下化に注目が集まっているものの、既に人口減少等が進んでいる地方都市に対して将来に亘って有効なソリューションかは十分な検証が必要である。一方、実証実験段階に移行しているテクノロジーも増えている。例えば、東京電力グループとゼンリン等が展開するドローンハイウェイ構想(送配電設備等の位置情報を活用したドローン運行管理システム)は、2018年に荷物配送での実証実験を成功させている。当該構想は活用方法として災害対応も掲げており、必要に応じて地方公共団体とのデータ共有を行えば、既存の送配電設備を維持しつつ、復旧活動の速度を上げられる可能性がある。

◇地域行政体制の見直し(長期的視点)

 上記までの課題を踏まえれば、ヒト・モノ・カネを動かせる主体から現場までの意思決定プロセスがシンプルであることは極めて重要である。特に人口減少等の課題が顕在化している地方都市においては、既存の行政体制(行政区画含む)を見直さなければ、自然災害の不確実性に対する本質的な解決手段にはならない。将来的な人口・経済規模を勘案した広域化(意思決定プロセスに関しては短縮化・迅速化)について、改めて議論を促したい。

参考文献:総務省第32次地方制度調査会、「2040 年頃から逆算し顕在化する地方行政の諸課題とその対応方策についての中間報告」(2019年7月)

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