不動産マーケットリサーチレポート最新号 発行 
日本の不動産市場の見通し
 ~不動産価格のさらなる上昇の条件として、中期的な賃料上昇の実現が鍵に~

株式会社三井住友トラスト基礎研究所

 株式会社三井住友トラスト基礎研究所は、国内主要都市の不動産市場の見通しを示した不動産マーケットリサーチレポートの最新号(2013年10月時点調査)を発行しました。以下では、不動産マーケットリサーチレポートの要点を示します。
 これまで、不動産タイプによらず、期待利回りの低下(リスクプレミアムの縮小)が不動産価格の上昇をもたらしましたが、さらなる上昇の条件として、中期的な賃料上昇の実現が鍵であり、不動産タイプによる賃料上昇の度合いが価格トレンドに差異をもたらすと考えられます。

相似形をなすアベノミクスの進展と不動産市場の回復

 ①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略で構成されるアベノミクスの3本の矢は、これまでところ①と②において成果を得ました。金融緩和と円高是正が株高につながり、資産効果を一因とする消費拡大と公共投資が景気回復を牽引しています。不動産市場もこれと相似形をなして回復してきたといえます。特に、①によって内外投資資金がリスクオンの姿勢となり、リスクプレミアムが圧縮されることで、不動産価格の上昇が続いています。
 当面、金融緩和は継続すると見込まれるため、リスクプレミアムの圧縮による価格上昇圧力は今後も継続すると考えられますが、リスクプレミアムの圧縮が一定程度進んだことから、今後の圧力は低減すると考えられます。対照的に重要度を増すのが、アベノミクスの焦点が短期的に効果を得やすい①、②から、中期的な効果が期待される③の実現に移ってきているのと同様に、不動産市場においては賃料上昇の実現です。将来、金融緩和の出口を迎える段階での金利上昇を想定すると、金利上昇による価格下落圧力と賃料上昇(実現または確かな期待)による価格上昇圧力のバランスがどのようになるかが重要になってきました。

不動産タイプごとの賃料特性や価格変動サイクルの違いを踏まえた出口タイミングの想定が重要

 国内外の機関投資家のオルタナティブ投資ニーズの拡大、中でも安定したインカムを指向する投資家の不動産投資ニーズの拡大により、賃貸住宅や物流施設への投資が先行してきましたが、株高やインフレ期待、東京五輪の開催決定等、総合的に見た成長期待から、投資が遅れ気味であったオフィスビルや都心商業ビルへの投資が活発化してきました。リファイナンスで物件を継続保有してきた私募ファンドが、資金調達力の高まったJ-REITへ物件を売却する動きが活発化しており、加えて個人富裕層や事業法人もインフレ期待等から物件取得を活発化させています。また、円高是正が進んだことでクロスボーダー資金による取引も増加しています。金融緩和によって流動性が高まり、リスクプレミアムの圧縮を通じて不動産価格が上昇しています。

 賃貸マーケットについても着実な進展が見られます。オフィス市場においては、抑制傾向の新規供給と企業業績の回復を受けた需要拡大が相俟って、空室率の低下トレンドが強まっており、賃料は2014年以降上昇に向かうと予想されます。足元で、テナントのビル選択における極端な二極化が賃料上昇の阻害要因になっていますが、一層の空室率の低下と企業業績の回復によって二極化傾向は徐々に緩和され、本格的な賃料上昇へ向かうと予想されます。賃貸住宅市場においては、雇用の回復を受けて大都市への人口流入傾向は強まっており、加えて建設費上昇を賃料に転嫁しにくいタイプであることから新規供給の抑制傾向が続き、賃料は堅調に推移すると予想されます。商業施設市場では、コト消費の獲得を狙った新しいタイプの大型SCの出店で競合が増しつつありますが、消費支出の増加が売上効率の上昇につながり、これが賃料に反映されやすい都心商業ビルでは賃料の上昇が期待されます。物流施設市場では、大量供給による需給バランスの悪化が懸念されましたが、ネット通販事業者や3PL事業者の需要が想定以上に強く、需給バランスの悪化は小幅にとどまる公算であり、今後は新規供給の減少を受けて需給バランスは堅調に推移すると予想されます。このように、全般的に賃貸マーケットは好調に推移すると予想されます。

 ただし、賃料上昇トレンドについては差が生じると考えられます。稼働率の変動に合わせて賃料の変動が大きくなるオフィスや、消費拡大の恩恵を受けやすい都心商業ビルについては、相対的に賃料上昇率が高くなると予想されます。一方で、賃貸住宅については、需給バランスは安定的ながら、消費者からすれば所得の大幅な増加がない限り固定費となる賃料の上昇は受け入れづらく、賃料上昇率は低めになると予想されます。物流施設も、燃料費が上昇する中で物流事業者のコスト意識は強く、賃料上昇率は低めになると予想されます。

 当面は、賃料上昇が実現または上昇期待が確かになることで不動産価格の上昇傾向は継続すると考えられますが、中期的には金利上昇による期待利回りの下げ止まり、反転上昇が価格調整圧力になると考えられます。前述の不動産タイプごとの賃料変動特性を踏まえると、オフィスや都心商業ビルは価格調整圧力が比較的弱いと考えられますが、賃貸住宅や物流施設については、期待利回りの低下がこれまでに相当程度進んできたことも加味すると価格調整圧力が比較的強くなる可能性があります。不動産タイプごとの賃料特性や価格変動サイクルの違いを踏まえ、出口のタイミングを想定することが重要になってきたと考えられます。一方で、新興国経済の減速と米国の金融緩和縮小による減速の加速、欧州のデフレ懸念、アベノミクス第三の矢の不発等、国内外経済にはリスクもあることから、キャッシュフローが安定的な賃貸住宅や物流施設がリスク回避的な投資資金の受け皿として継続的に高い支持を受ける可能性も注目されます。

不動産マーケットリサーチレポートのご案内

 三井住友トラスト基礎研究所では、全国主要都市の不動産賃貸市場、不動産投資市場の将来見通しや、その市場特性・動向を「不動産マーケットリサーチレポート」として年2回(6月、12月頃)とりまとめ、販売しています。

レポートの構成

第1章 経済環境編
第2章 不動産賃貸市場 (オフィス編)
第3章 不動産賃貸市場 (住宅編)
第4章 不動産賃貸市場 (商業施設編)
第5章 不動産賃貸市場 (物流施設編)
第6章 不動産賃貸市場 (ホテル編)
第7章 不動産投資市場編
第8章 資産価値変動リスク編

レポートの種類・販売価格

  • レポートには、内容の充実した「本編」、要点を簡潔にまとめた「要約版(日本語版・英語版)」があり、全章セット、章別のいずれでもご購入いただけます。
  • 販売価格については価格表をご用意していますので、投資調査第1部・第2部へお問い合わせください。
  • 2012年度は、J-REITおよび不動産私募ファンドの運用会社、不動産会社、商社、金融機関、リース会社、投信委託会社など22社に提供しました。
  • 経営計画や不動産投資戦略の策定、キャッシュフロープロジェクションの作成、不動産開発事業のタイミングの判断、不動産投融資のリスク管理、投資家等資金提供者への説明等、幅広い用途にご活用いただける内容となっております。

※不動産マーケットリサーチレポートの、より詳しい内容は、当社ウェブサイトをご覧ください。
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