私募不動産投資市場の長期安定的な成長に向けて

私募投資顧問部 主任研究員     前田 清能

 世界的な金融危機以降、長きにわたって低迷を余儀なくされた国内不動産市場は、空室率の改善や不動産取引量の拡大に加え、東証REIT指数も年初来30%超上昇するなど力強い回復を見せている。一方で、私募不動産投資市場は、2013年6月末時点で16.7兆円となり年初来8,800億円の減少(当社推計)となるなど、未だ調整の最中にある。以下では、私募不動産投資市場が長期的成長を遂げるために何が求められているかを考察したい。

 筆者は、私募不動産投資市場の成長には主に3つの前提条件が必要と考える。すなわち、「低コストで安定的な借入資金の調達」、「投資適格不動産の安定的な供給」、そして「投資家層の拡大と長期安定的な投資資金の流入」である。

 黒田体制下の日銀による大規模な金融緩和の推進により、将来の金利上昇懸念は燻るものの私募不動産投資市場においても低コストの融資資金が潤沢に供給されている。また「投資適格不動産」についても、不動産価格の上昇等を背景に、金融危機以前に投資され出口戦略を描けずにいた不動産の多くが市場に放出されつつある状況に加え、近年供給を増している物流施設も投資適格不動産としての認知を確固たるものとしつつある。また高齢者向け住宅なども新たな投資対象として積極的に検討されている。直近では不動産特定共同事業法改正によりSPCが匿名組合を用いて現物不動産を取得することが可能となることで、未収益不動産や耐震性・環境等に問題があるが改善余地のある不動産に投資対象としての道を拓いたところでもあり、「慢性的な投資適格不動産不足」解消への取組みが始まっている。

 そう考えると、「私募不動産投資市場の拡大」の大きな鍵を握るのは、「投資家層の拡大と長期安定的な投資資金の流入」となるようである。前述のとおり、既存投資家の多くが足元の不動産市況を「過去の遺産」清算の好機と捉えて物件売却を加速する一方、一部の海外投資家が日本での不動産投資を再開・加速する動きを見せてはいるが、「長期安定的な投資家」の代表選手である国内年金基金の多くが、昨年来の年金制度改革の動きの中で新たな不動産投資に躊躇するなど、市場への新たな資金流入は限定的である。

 そのような中でも、新しい私募不動産投資スキームとして低レバレッジとオープン・エンド型の仕組みを採る私募REITが登場し、金融危機以降顕在化し、投資を阻害する一因ともなっている私募不動産投資スキーム上の問題について一定の解決法を提案しているようにも見える。実際に私募REITのコンセプトに賛同する一部の年金基金や地方金融機関が投資を加速させている。

 しかしながら、既存の私募不動産投資家層が一部のプロ投資家を中心に構成され、市場と一般投資家を結ぶ投資スキームやビジネスが未整備である状況こそが、私募不動産投資市場の厚みの形成を阻害し、時として市場の安定性を欠く要因となっているのではないだろうか。投資家保護の重要性は論じるまでもないが、例えば信託スキーム等を活用し、投資の小口化等を図るためのファンドオブファンズや個人投資家による投資スキームを検討し、年金基金や個人投資家の資金を市場に導く方策を考えるときではないだろうか。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2013.11.5 No.305」 寄稿コラム)

前田 清能

私募投資顧問部 副部長 主任研究員
前田 清能

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