森林ファンド元年(上) -動く山-

投資調査第1部 上席主任研究員 西岡 敏郎

 やや旧聞に属するが、昨年(2016年)9月20日~22日に米国オレゴン州ポートランドで開催された"Who Will Own the Forest? 12"というコンファレンスに参加した。主催者は、World Forestry Instituteという団体で、森林ファンド関係者が集まるイベントとして知られており、参加者は約400名、参加企業は約200社にのぼる。米国からの参加者が大半を占めるが、カナダ、ブラジル、オセアニア、ヨーロッパからも参加があった。参加者の属性としては、CalSTRS、Ontario Teachers' Pension Planといった森林ファンドへの投資家(アセット・オーナー:AO)、Hancock Timber Resource Group、Campbell Globalなどの森林投資アセット・マネージャー(Timberland Investment Management Organization:TIMO)、Forest Resource ConsultantsやMason, Bruce & Giradといったコンサルティング・フォレスター(Consulting Forester)、大学の研究者、民間リサーチ機関が参集した。

 同イベントで行われた講演のタイトルをいくつか列記すると、「テナントとしての森林-森林投資と不動産投資の比較-」、「TIMO、年金、AOから見た森林投資」、「森林評価のプロセス-評価人、TIMO、AO、監査人の視点」など、森林投資が、機関投資家の投資対象となるアセット・クラスのひとつとして確立されていることがうかがえる内容であった。

 森林投資市場の規模は世界で10兆円程度と言われており、株や債券はもとより、不動産投資市場と比較しても小さくニッチな市場である。森林投資は、米国において、1970年代にERISA法の影響から徐々に拡大したが、先導役を果たしたのは、大学の投資基金(ハーバード大学が有名)、大手年金基金、生命保険会社などの、長期投資を是とする機関投資家であった。また、そもそも投資対象となるまとまった規模の森林は、製材会社や製紙・パルプ会社などが保有していたものが、より効率的な資産活用という観点により、バランスシートから切り離されたものが多かった。

 森林投資市場が成熟している北米においても、森林投資市場は、不動産投資市場より「10年遅れている」といったことが、上記のコンファレンスでは指摘されていた。しかし、例えば、投資において基本となる資産価値の評価という点では、森林資産をDCF法により評価する方法が確立されており、さらにその前提となる森林面積、樹種や材積量、境界や所有者および権利関係の確定など、情報インフラが整備されている。また、機関投資家が森林ファンドへ投資する際のデュー・デリジェンスも、大手の投資コンサルタントやリアル・アセット投資に特化したコンサルタントにより行われている。これらの専門家を輩出するのは、Oregon State UniversityやUniversity of Georgiaを始めとした大学等による充実した専門教育機関である。

 森林投資は、北米のみならず、オセアニア地域(オーストラリアやニュージーランド)、中南米(ブラジルやチリ)、北欧(フィンランドやスウェーデン)にも広がりを見せており、特に近年では、ESG/SDGs投資の観点からも注目が高まっている。すなわち、グローバルな機関投資家の世界では、すでに山(森林)は動いているのである。

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