ESG投資を後押しする、環境認証と建築物スペックと投資家意識の好循環

私募投資顧問部 主任研究員   菊地 暁

 株式投資の世界ではもはや常識となりつつあるESGであるが、ここへ来て不動産投資でもESGに配慮した投資が急速に主流となりつつある。ESGとは、E(環境・Environment)、S(社会・Social)、G(企業統治・Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉であり、ESG投資とは、当該非財務情報を考慮し、投資判断を行うことを指す。

 もともと、建築物はCO2排出量規制等の対象として環境対応の必要性が叫ばれてきた。国土交通省では、環境不動産普及促進検討委員会において環境不動産懇談会提言(2012年)や、グリーンリース・ガイド(2016年)などを作成し、環境不動産の普及とステークホルダーへの啓発に努めてきた。

 不動産業界におけるESG投資の急速な広がりの背景には、国土交通省による委員会活動に加え、不動産会社・運用機関のサステナビリティ配慮を測るベンチマークであるGRESB(Global Real Estate Sustainability Benchmark・2009年創設)の普及、2017年のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)によるESG指数投資の開始などが契機と考えられる。

 不動産のサステナビリティを専門に調査・研究してきた有識者には、Eだけではなく、SやGにも配慮した不動産投資は自然に受け入れられる概念だ。一方、これまで「環境不動産=高コスト」と対応が後手に回っていた関係者には、急速にESGが浸透し、投資の表舞台に立つことに戸惑いを感じるだろう。ESG投資のコンサルティング会社には、不動産のステークホルダーから連日のように取組方法のアドバイスを求める問い合わせがあると聞く。

 資産運用会社のESGへの取組姿勢も進化(深化)している。2018年2月20日時点で上場しているJ-REITのホームページ等をもとにESG関連項目記載の有無を確認した。その結果、61投資法人中46投資法人(75.4%)にESG方針、サステナビリティ方針等の記載もしくは環境認証取得等のニュースリリースがあった(2010年までに設立された30投資法人では25投資法人(83.3%)が掲載)。また、複数の投資法人もしくは資産運用会社では、ESG方針だけではなく、ESGレポートを開示し、その取組状況を詳細に報告していた。J-REITのほとんどがGRESBに参加しており、GRESBがサステナビリティ評価項目に「ポリシーと開示」を掲げていることから、ホームページへの掲載はGRESB評価による影響と推察する。しかし、数年前までは決算説明資料にも環境関連の記載がほとんど無かった状況からは、隔世の感がある。GRESBの普及が不動産投資の取組姿勢の洗練に多大な貢献をしていることに疑いの余地はない。

 不動産におけるESGの概念は更なる広がりを見せている。昨年国土交通省が設置した「ESG投資の普及促進に向けた勉強会」(座長:堀江隆一氏 CSRデザイン環境投資顧問(株)代表取締役社長)では、健康性、快適性等に優れた不動産に係る認証制度のあり方について検討を重ねた。この勉強会は、従来の概念に加え、働く人の健康や快適性にも配慮した建築物のストック形成を促進しようとするものである。東日本大震災後にはサステナビリティとともにレジリエント(強靱)な建築設計を求める声が高まった。投資対象となり得るレベルのオフィスビルでは、BCP対応はもはや標準装備である。環境負荷の低減、安全・安心のみならず、執務環境の改善や知的生産性の向上にまで配慮したオフィスビルが高く評価され、いずれは標準装備となるのも、そう遠い未来ではないであろう。

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