アマゾンがニューヨークにこだわる理由とは?
~熾烈を極めるタレント争奪戦、コワーキングスペースは今後も拡大か~

海外市場調査部 主任研究員   北見 卓也

既定路線だったアマゾンのNY拠点拡大

 5月末、アマゾン(Amazon・EC大手)が再び、ニューヨーク(NY)での大規模なオフィス拡張を検討していると報じられた。ただし、今回はHQ2(第2本社)としてでもなく、クィーンズ区のLIC(ロング・アイランド・シティ)への進出でもない。マンハッタンのペン駅(Pennsylvanian Station)近くで、2022年に竣工予定のオフィスビル(Two Manhattan West・17.7万㎡)を賃借する前提で、その周辺で従業員を段階的に増やすという。これが実現すれば、マンハッタンにおける同社の従業員数は現在5,000人のところ、15,000人程度に増員する見通し。

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 そもそも、アマゾンがLICへのHQ2設置を断念せざるを得なかったのは、市からの補助金32億ドルに対して、政治家や地元民からの批判が集中したためだ。ところが、今回の動きで同社にとっては補助金の有無はあまり関係がなく、NY拠点の拡大は既定路線だったことが分かる。しかし、西海岸のシアトルに拠点を構えるアマゾンが、東海岸のNYにそこまでこだわる理由は何か。
 最大の理由は、「人材獲得」と考えられる。なぜなら、ハーバード大やマサチューセッツ工科大を筆頭に、米国における主要な教育・研究機関は東海岸側に集中しており、毎年数多くのテック人材(タレント)が輩出されるためだ。アマゾンHQ2として確定した、バージニア州のクリスタルシティ(ワシントンDC近く)も、連邦政府職員を含む、テック人材が居住するエリアに近接しており、同様の理由で選定された可能性が高い。西海岸に本社を構えるアマゾンにとって、東海岸の拠点を拡大し、テック人材の包囲網を拡大することの意義は大きいはずだ。
 もう1つの重要な理由は、NYの「多様性」にあると考えられる。なぜなら、変化の早いテック業界では、まずは試作品(プロトタイプ)をつくり、様々な視点から素早く反復検証(イテレーション)した方が時代に即応したものを生み出しやすいと考えられているためだ。特にマンハッタン周辺部は、昔ながらのウォーカブルな街並みに異なる国籍、人種、文化的背景を持った多種多様な人々によって、共同生活が営まれてきた。世界全体を見渡しても、NYは異質なグローバル都市であり、最適な実験環境とも言える。更には、全米の中でも圧倒的に経済規模が大きく、資本も人材も集まりやすい。NYがサンフランシスコに次ぐ、起業都市(スタートアップ・シティ)に変貌したと言われるのは、こうした要素が大きいと考えられる。

Googleとの対決色が強まる

 ところで、結局は未遂に終わったアマゾン HQ2のLIC設置のニュースが流れると、この動きに対抗するようにマンハッタンにおける人員拡大をプレスリリースしたのはグーグル (Google・IT大手)だった。同社は24億ドルでNY本社に隣接するチェルシー・マーケット(オフィスと商業の複合施設)を取得していたが、更にソーホー(SoHo)エリアの西側、ハドソン川寄りのエリアに10億ドル投資して、オフィスキャンパスを開発。7,000人の従業員を倍増させ、14,000人にすると発表したのだ。

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 ソーホーエリアと言えば、ショッピング街やギャラリーのイメージが強いが、現在ではテック系人材が集うコワーキングスペースが多数存在する。勿論、テック系企業が増えていることも関係しているとみられるが、こうした人材の多くが、全米で最も家賃が高いマンハッタンよりも、ブルックリン方面へ居住する傾向がみられ、そこからの公共交通機関(地下鉄・バス等)、自転車でのアクセス性を重視してきたためと考えられる。

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 しかし、最近ではブルックリンの賃料も高騰しつつあり、より広範囲に人材をカバーする必要が出てきたようだ。前述のグーグルのキャンパスオフィス建設予定地も、一見すると辺鄙な場所だが、実はブルックリン方面だけでなく、ハドソン川対岸のニュージャージー方面にも比較的アクセスしやすいことに気がつく。一方、アマゾンがオフィスを構えている34丁目付近は、ブルックリンやクィーンズ、ニュージャージー方面へのアクセス性が良好なことに加え、ペン駅が利用可能である点も大きい。ペン駅はマンハッタンから東側へ伸びるロングアイランド鉄道に直結し、北側へと伸びるメトロノース鉄道が乗り入れる計画が進んでいる。また、主要都市間を結ぶ、特急列車(アムトラック)の停車駅でもあり、より広範囲に人材をカバーできるポテンシャルがあると言えよう。

今後の見通し

 大手テック企業によるタレント争奪戦は、当面継続するとみられる。また、マンハッタンの主力産業と言えば、現在でも金融業であるが、ここでもフィンテック(FinTech)の分野が業界構造を大きく変えようとしている。例えば、ロンドン資本の金融機関バークレイズ(Barclays) は、過去数年に及んでマンハッタン勤務の社員を減らしてきた一方で、フラットアイアン地区(Flatiron District)のrise(ライズ)と呼ばれるコワーキングスペースを運営し、フィンテックに特化したアクセラレーター(スタートアップビジネスの拡大支援)の役割を果たすことで一定の成果をあげてきた。こうした経緯からも、マンハッタンでは今後もテック企業は勿論、それ以外の業種でもテック人材の争奪戦は続くと予想される。また、テック企業の多くは、社員による起業を奨励しているため、テック系人材が増えるほど、その周辺でスタートアップの動きが活発化する。マンハッタンで今後もテック人材が増えることを前提にすれば、コワーキングスペースへの需要は更に拡大することだろう。

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