マンハッタンを生き抜く店舗に見られる3つの共通点
~ネットとの融合で「スマート消費者」取り込めるか~

海外市場調査部 主任研究員   北見 卓也

スマート消費者に素通りされた老舗デパート

 マンハッタンを訪れる人の数は、年々増えているにも関わらず、老舗デパートの苦境ぶりが目立つ。昨年末からロード・アンド・テイラー(創業200年)、ヘンリー・ベンデル(創業123年)等の老舗デパートが、ニューヨーク五番街から相次いで姿を消した。そして、マディソン街に本店を構える、バーニーズ・ニューヨーク(創業96年)も賃料高騰を理由に破産申請をした。
 これらの老舗デパートに共通していたのは、「スマート消費者」への対応が遅れていた点にある。スマート消費者とは、ネット上の情報源やショッピングサイトへ容易にアクセスでき、商品の評価(レビュー)、市場の最低価格等、比較検討のために必要となる材料をすぐに揃えられる消費者のことである。ニューヨーク五番街のように、世界的に有名な商業立地であっても、スマート消費者が店頭でショッピングをする理由を見出せなければ、商品が売れない現実に直面している。

①ネットと店舗の融合を体現できているか?

 しかし、ワシントン州シアトルに拠点を構えるノードストロームは、マンハッタンで果敢に積極出店している。ブロードウェイがセントラルパークに接するコロンバスサークル周辺で、昨年4月に男性向け(3フロア、1,321坪)、今年10月には女性向け(7フロア、8,993坪)の総合デパートを新規オープンした。
 同社は既にディスカウント店舗や地域密着型の小規模店舗等、いくつかの店舗形態をマンハッタンで展開してきたが、新規出店した総合デパートは規模が大きいだけでなく、服のカスタマイズやリメイク、美容サービスの充実、パーソナル・スタイリストが個別相談に応じる等、これまでの経験を活かした店舗の集大成と位置づけられている。しかし、ここで注目したいのは、ネット販売高が拡大することを狙って、事前にネット注文した商品をいつでも受け取れる「24時間対応のピックアップカウンター」や「無人対応の返品用ボックス」が設置されている点だ。
 米国では、広い店内を歩き回り、会計を済ませるためにレジで長時間待たされることが多い。しかし、予めネット上で注文と会計を済ませておき、都合の良い時間に専用カウンターで受け取れれば、そのようなストレスはかなり軽減される。こうした理由から、同様のサービスが全米で普及してきたものの、24時間対応するデパートはこれまでになかった。また、実際に商品を手に取ってみて、イメージや質感・サイズ感が異なるという場合にも気兼ねなく返品できるよう、返品用ボックスを無人対応とした点にも、細やかな心遣いが見られる。
 同社によれば、新規店舗をオープンすると、その店舗周辺におけるネット販売率が20%前後にほぼ倍増するとしている。また、同社のネット販売のサイトでは、店員が1つ1つの商品を丁寧に説明する動画が掲載されていることからも、スマート消費者を強く意識していることが分かる。つまり、ネット上でショッピングを完結するよりも、双方を融合させることによって、より満足度の高いショッピングを実現しやすく工夫されている。

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②ネットの弱みを逆手にとった集客要素があるか?

 ところで、スマート消費者にとっては、わざわざ店舗へ足を運ぶための理由づけの部分がこれまで以上に重要となってきている。なぜなら、いつでも、どこでもネット上でモノが買える状態になってくると、わざわざ店頭へ足を運ぶ意味を見出しにくくなるからだ。しかし、来客者が実際にくるからこそ、店舗の存在意義が出てくると言えよう。そこで、店舗の集客力を高めるためには、ネットショッピングだけで満たされない部分を集客要素とする必要性が高まっている。
 例えば、デパートやディスカウント店の中核となりうる集客要素の代表例に「靴売場」がある。なぜなら、靴は同じメーカーの同じサイズであっても、実際に履いてみないとフィット感が分からないことが多いためだ。前述のノードストロームをはじめ、多くのデパートやディスカウントストアで靴売場の面積が広くとられる傾向があるのはこのためだ。
 また、ショッピングモールの中核となりうる集客要素の1つに、グロサリーがある。特に生鮮食料品は、同じ品目であっても、店頭で陳列されている商品の個体差が大きく、鮮度や価格もその日の状況によって、大きく異なるためだ。仮に「あの店では鮮度の高い食材が、安く売られている」という情報があったとしても、本当に鮮度が高いのか、安いと思えるかは、店頭に並んでいる食材を自分の五感で確かめてみないと、納得がしにくいだろう。
 こうした点を逆手にとったのが、ターゲットやウォルマート等の生活用品の量販店だ。両社とも、グロサリー売場を充実させることで集客力を高めている。しかし、その本当の狙いは、生活用品をついでに買ってもらうところにあるのだ。

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③時代に合わせ、ビジネスモデルを柔軟に変化させているか?

 スマート消費者を取り込んでいくためには、店舗の良さをテクノロジーと融合させつつ、新しい環境へと適応させていく必要がある。しかし、スマート消費者に対して、どのような店舗形態が受け入れられるのかは、実際にやってみないとわからないことが多い。また、新しいコンセプトで一時的に話題性を生み、集客に成功したとしても、その後も継続的に集客できるかはまた別次元の話である。オープン当初は、話題性や物珍しさから、多くの人々が訪れたとしても、継続的にリピーターを獲得していくには、それ以上の理由づけやビジネスモデルの修正が必要となることもある。
 例えば、イケアがマンハッタンのアッパーイーストに初めてオープンした「イケア・プランニング・スタジオ」(都心型店舗)は、通常店舗と同様に商品やレイアウトイメージの実物を一部確認できるだけなく、専用ソフトウェアを使い、店員と相談しながら自分の部屋を具体的にイメージできるブースが設けられている。オープン当初は、多くの来客者を集めてきたが、その場ですぐに商品を受け取れないことが分かると、不満の声が高まった。イケアは、通常店舗(大抵は車でないとアクセスしにくい場所にある倉庫型の大型店舗)への集客効果を狙って、意図的にネット販売をしない戦略を採っているためだ。この都心型店舗も例外ではなく、商品を店頭で受け取れない仕組みになっており、プランニングを目的としない来客者からすれば、利便性の低い店舗と評価されてしまっている。都心部でより広い購買者層を獲得するのであれば、既存のビジネスモデルに固執せず、例外をつくってもいいのかもしれない。

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 一方、ナイキがニューヨーク五番街に昨年末オープンした店舗には、常に新規性・話題性を提供する仕掛けが用意されている。「NYC ハウス・オブ・イノベーション 000」と名付けられた店舗には、1階の出入口付近に靴や服のカスタマイズを個別に相談できるブースが設けられたり、アスレチック・ゲームを体験できる会場やバスケットボールのコートが出現したりと、フロア全体が変幻自在なイベント会場のようになっている。また、それぞれが期間限定であり、斬新さ、デザイン性の高さ、ビジュアルの面白味等から、五番街を通りかかる大勢の人々が店舗を訪れ、大抵の人は写真を撮っていく。そして、そこで撮られた写真は、インスタグラムのようなソーシャルネットワークを通じ、他のスマート消費者へと情報が伝播していく。スポーツ系のアパレルブランドの中でも、いち早くテレビCMを止めたことで知られるナイキは、スマート消費者間におけるネット上の口コミの連鎖、宣伝効果を狙い、神出鬼没で変化し続けられる広告塔をつくったと考えられる。

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 以上で見てきたような店舗形態が、今後も継続しうるものかどうかは、実際にやってみないと分からない。むしろ、今後もスマート消費者が店舗側に求める機能は、テクノロジーの進歩やその普及とともに変化するため、全く同じ形態は長く続かないと考えた方が自然だ。しかし、テクノロジーを店舗に融合させつつ、ネットショッピングで満たされない部分を集客要素とし、ビジネスモデルを柔軟に変化させていくこと自体は、今後もスマート消費者を取り込むうえで欠かせない、普遍的なファクターとなるだろう。

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