新型コロナ危機の直撃で綱渡りが続く米住宅市場

海外市場調査部 主任研究員
(三井住友信託銀行ニューヨーク支店に出向中)
  北見 卓也

全米で5分の1に相当する雇用が消失

 新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)に伴う経済活動の停滞により、米経済指標の悪化が本格化しつつある。特に3月以降、米市民への在宅勤務命令・自宅待機要請、店舗・集客施設の営業禁止、イベント中止等、ロックダウンの影響が全米各地へ広がったことで、消費活動は大幅に制限され、小売売上高は2020年3月に前月比-8.7%と1992年の統計開始以来、過去最大のマイナス幅を記録。また、3月下旬からは全米各地で自動車関連の工場が閉鎖されたこと等が響き、鉱工業生産指数は3月に前月比-6.3%ポイントと、1946年以来74年ぶりの落ち込み。そして、全米の雇用動向の先行きを示す新規失業保険申請件数は、3月中旬以降の7週間で累計3,300万件を超え、単純計算で、米労働人口のほぼ5 分の1に相当する雇用が消失した。

住宅ローンの返済猶予で時間稼ぎ

 失業者の急増で、もっとも影響が懸念されるセクターのひとつは米住宅市場であろう。しかし、2007年に発生した世界金融危機での教訓を活かし、連邦準備理事会(FRB)と連邦政府の動きは素早かった。
米国で国家非常事態宣言が発出された3月13日迄に、FRBは緊急利下げを矢継ぎ早に実施し、実質ゼロ金利を4年ぶりに復活。その後、間もなく米国債とモーゲージ(住宅担保証券)を無制限に買い入れる方針(QE4)を示した。また、連邦政府が2兆2,000億ドル規模の予算で新型コロナ救済法(Cares Act)を3月27日に可決。住宅ローン債務者への救済策として、米住宅ローン件数の半数程度を占める連邦政府系の住宅ローンには、原則6カ月の返済猶予期間を設け、その間の遅延損害金を免除した。
 こうした返済猶予の措置を受けて、返済の先延ばしを求める住宅ローンは急増した。抵当銀行協会(MBA)によれば、3月中旬時点で0.25%だったものが、4月中旬時点には5.95%に上昇し、1カ月間で新たに約300万件の住宅ローンが返済猶予を受けた。しかし、その甲斐あってか、住宅取引件数の8割程度を占める中古住宅価格に今のところ大きな変動はない。全米リアルター協会(NAR)によれば、3月の中古住宅価格(中央値)は前月比+3.7%の伸びを維持。ニューヨーク州やカリフォルニア州を含め、多くの州で金融機関による差押えや競売による強制売却(フォークロージャー)が禁止されたため、今後も投げ売り状態となって、大きく値崩れする局面は当面想定しにくいと言えよう。

家賃延滞率が一時、3分の1を超える

 一方、賃貸住宅市場では、支払期日通りに家賃を支払わないテナントが増えつつあり、先行きに対する懸念が強まっている。全米集合住宅協議会(NMHC)がモニタリングする全米各地の1,150万ユニット分の家賃支払いデータによれば、4月分賃料を全く支払わなかったテナントの割合(家賃延滞率)は4月初旬時点で3分の1を超えた。その後、4月下旬時点では、延滞率は16%にまでほぼ半減したものの、前年同月の5%からは11%ポイントの上昇と高い水準にある。
 また、NMHCに賃料回収のデータを提供するEntrata社によれば、テネシー州、マサチューセッツ州、ネバダ州等では、4月の家賃延滞率が上昇し、10%を上回っていた。更に、不動産情報サイトを運営するProperty Nest社が、ニューヨークの賃貸住宅の入居者を対象に実施したオンライン調査によると、無収入状態が1カ月間を超えただけでも、家賃を支払えなくなるとの回答が過半数を超えており、賃料水準が高騰していた都市中心部では、今後も延滞率が上昇しそうだ。
 更には、州政府のテナント救済策が裏目に出てしまう可能性もある。例えば、ニューヨーク州では、テナントが賃料を全く支払っていなくても、3月20日から8月20日迄の5カ月間は立退き請求や延滞金の請求が禁止され、テナント側から敷金を賃料に充当できるようにもなった。しかし、こうした救済策を逆手に取り、手元資金が不足しているテナントのみならず、将来不安を抱えるテナントも目先の食費や医療費の支払いを優先し、賃料の支払いを後回しにするケースが増え、延滞率が上昇する状況も想定される。

綱渡り状態は当面続く

 いずれにしても、こうした救済策は、経済再開までの時間稼ぎでしかなく、綱渡り状態であることに変わりはない。判断やタイミングを誤れば、住宅市況を大きく悪化させてしまうだろう。足元では、生活に困窮する失業者が、全米各地で経済再開を求める反ロックダウン運動(抗議デモ)を展開しており、鼻息の荒いデモ参加者がマスクを着用せずに州議事堂の周辺で密集する等、州政府としても無視できない状況となりつつある。しかし、安易なロックダウン解除は、感染者を増やし、市況悪化を余計に長期化させてしまうリスクも高い。各州では、市民の安全を確保するというスタンスを貫きつつも、段階的にロックダウンを解除し、早期に経済活動を正常化させるという、難しい舵取りが求められている。

※株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2020年5月5・15日号<Global Report>」への寄稿文「新型コロナ危機の直撃で綱渡りが続く米住宅市場」 を一部更新・加筆して転載

関連事例の紹介

海外主要都市の不動産市場の比較や詳細な個別市場調査を行います
海外主要都市の不動産市場比較
海外エリア別・タイプ別の不動産市場調査

関連する分野・テーマをもっと読む