海外市場調査部 研究員
飯塚 希
AIが生み出す米国オフィス市場の投資機会
―エッジデータセンターへのコンバージョン増加の兆し―
米国のオフィス空室率は、賃貸需要の低迷を背景に過去最高水準となっている。パンデミック後の出社義務化で進むと期待されたオフィス回帰は進んでいない。Kastle Systemsによれば、足元の全米10都市平均のオフィス出社率は50%台半ばの水準で頭打ちとなっている。加えて、AIを利用した省力化・効率化の動きから人員削減も拡大している。米国のオフィスは構造的な供給過剰に陥っているといえる。
空きオフィスの新たな有効活用方法としてコンバージョンが注目を集めている。特に、都市部で不足している住宅へのコンバージョンに対する期待が高い。ニューヨーク市における用途規制の緩和や、ワシントンDCにおける住宅へのコンバージョンに対する減税措置等、自治体からの支援もあり、住宅へのコンバージョン件数は増加トレンドにある。米国賃貸検索サイトのRentCafeによると、オフィスからのコンバージョンによって2024年には全米で5,900戸の住宅が供給され、前年の供給数から34%増加した。2025年においても、ニューヨークの32階建てのオフィスビル・25 Water Streetが全面的に住宅にコンバージョンされるなど、複数の事例が見られた。
しかし、住宅へのコンバージョンに適したオフィスは限定的である。全米経済研究所によると、米国の主要105都市の中心部にあるオフィスのうち、住宅へのコンバージョンに適しているのは僅か11%とされている。オフィスは居住を前提に作られておらず、住宅との親和性は高くない。特に、近年の大型オフィスはフロア面積が広く、窓から大きく離れたスペースが多いことから、採光や風通しを確保できないデッドスペースが生じやすい。トイレやバスルーム設置のために、水回りの配管増設が必須となることも、コンバージョンを難しくする要因だ。今後、住宅へのコンバージョン件数は伸び悩む可能性が高い。
住宅以外に活路はないだろうか。最近、脚光を浴びているのがデータセンターへのコンバージョンである。企業が業務へのAI導入を本格化したことで、エッジデータセンター、つまり都市部の小規模なデータセンターへの需要が増加している。従量課金が基本となるクラウドAIが、AIを利用する企業の利益を圧迫し始めたことや、機微情報をローカル上で処理したいという需要から、AIを動かす場所をクラウドから自社サーバーへと移行し始めていることが背景にある。AIモデルの作成(学習)に大量の電力や冷却設備を必要とすることから、オフィスからデータセンターへのコンバージョンは困難と考えられていたが、AIモデルの利用(推論)だけに用途を絞れば、通常のオフィスの電力容量でも対応可能である。人の居住を想定しないため、内装工事に必要なコストが少ないことも、データセンターへのコンバージョンが持つ利点となっている。
データセンターへのコンバージョンには課題もある。データセンターはオフィスと異なる用途区分に分類されるため、コンバージョンにあたっては特別な許可が必要となる場合が多い。住宅へのコンバージョンでは用途規制の緩和が進められているものの、データセンターについてはこうした動きはまだ見られていない。反対に、都市部のデータセンターは、環境負荷や空調の騒音を懸念する近隣住民からの反対を受けやすく、バージニア州ラウドン郡のように住宅地近郊でのデータセンター開発に対する規制を強化している自治体もある。適切な立地選定や環境負荷および騒音への対策、そして周辺住民とのコミュニケーションなど、コンバージョン成功のためのハードルは少なくない。
それでもなお、データセンターへのコンバージョンは投資家にとって大きなチャンスとなりそうだ。需給が逼迫するデータセンターへのコンバージョンによる資産価値の向上は相当なものと見込まれており、例えば、不動産分野の技術コンサルティング会社であるPartner Engineering and Scienceは、メンフィスのビジネスパークについて、データセンターのコンバージョンで資産価値が400%上昇すると評価した。不動産投資会社のLegacy Investingやデータセンター開発スタートアップのHydraVaultは、既にミネアポリスやシカゴでオフィスビルからAI推論用のエッジデータセンターへのコンバージョンを進めており、先行者利益を確保する動きとみられる。また、オフィス資産価値低下が固定資産税減少を通じて自治体の財政を圧迫していることもあり、自治体が今後規制緩和に舵を切る可能性は高いと見ている。今後はデータセンターへのコンバージョンを前提としたオフィス取引が増加すると予想している。























