インターナルカーボンプライシング(ICP)導入により見いだされるZEBの価値

私募投資顧問部 上席主任研究員   菊地 暁

要約・概要

 気候変動問題への対応として脱炭素に向けた動きが世界的に加速している。我が国では、2050年にCN(カーボンニュートラル)を目指すと宣言し、官民挙げて様々な施策を行っている。CNを達成する過程において、非グリーンビルは、いわゆる「座礁資産」となり、投資対象から除外(ダイベストメント)される可能性がある。環境対応が遅れている建築物は、市場での陳腐化により不動産価格が低下する可能性(ブラウンディスカウント)がある一方、ZEB(Net Zero Energy Building)などのグリーンビルのニーズは益々高まると考えられる。

 TCFD提言では、「指標と目標」における推奨開示項目としてICP(Internal Carbon Pricing)の実施が推奨されている。ICPとは企業内部で見積もる炭素価格を指し、企業の脱炭素投資を推進する仕組みとして位置づけられており、脱炭素推進へのインセンティブ、収益機会とリスクの特定、投資意思決定など、様々な活用が期待されている。ICPの導入には、CO2を経済的価値として認識し、CO2削減価値を上乗せすることによる「みなしの利益」を加味した投資判断を可能にし、CO2削減コストを可視化するというメリットがある。その結果、これまで投資価値が認識されなかった物件についても投資対象として検討が可能となる。CRREM(Carbon Risk Real Estate Monitor)が設定する用途毎の排出量をもとに当社でCO2削減価値を算出したところ、規模や立地により差があるものの、オフィスビル・住宅で約5%、商業施設で10%前後不動産価値を上昇させた。このように、ICP導入は決して小さくはない投資価値創造をもたらしている。今後不動産運用会社各社がICPを設定することにより、低炭素ビルの新たな価値が見いだされ、ZEBなどのグリーンビルが投資対象のメインストリームになると想定される。

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