転換点にさしかかる米国住宅市場とレントコントロール

海外市場調査部長 研究主幹     伊東 尚憲

 米国住宅価格の転換点が近づいている。2022年7月のFHFA住宅価格インデックス(季節調整値)は前年同月比で+13.9%と2012年以来のプラスが続いているが、前月比では-0.6%とマイナスに転じた。高水準の住宅価格と、住宅ローン金利の急上昇で住宅取得意欲が大きく減退したことが要因である。一方、建材コストや労働コストの上昇で住宅新規供給も減少している。また、米国住宅取引の約8割を占める中古住宅流通市場においても、買い換えに伴う借入金利上昇を嫌って売却希望物件数が大きく減少している。結果、住宅取得需要は減少したものの、住宅供給も減少しているため、住宅価格の大幅調整には至っていない。米国総世帯数は年間100万世帯ペースで増えており、住宅需要は毎年着実に増加している。住宅取得難が続く中で、こうした住宅需要は、①購入をあきらめ賃貸住宅に住む、②取得可能な安い住宅を探す、ことになる。結果、①は賃貸住宅需要と賃料を押し上げ、②は住宅価格水準の低い郊外住宅や地方都市の住宅価格を押し上げている。賃貸住宅市場についてもう少し詳しく見てみよう。REISのデータによると2022年4-6月期の全米賃貸マンション空室率は4.5%(前期比-0.2ポイント、前年同期比-0.9ポイント)と賃貸需要好調を背景に低下が続いている。米国住宅の賃貸借契約は通常1年契約で、毎年、物価上昇等に連動して賃料も上昇するというのが一般的である。足元のタイトな賃貸需給とインフレによって、2022年4-6月期の募集賃料は前期比+2.7%、前年同期比+16.7%と強い上昇率となっている。

 こうした中、レントコントロールと呼ばれる家賃規制を巡る議論が増えている。レントコントロールは賃借人保護を目的としたもので、導入の可否を含め州や地方自治体が独自に制定するものである。規制内容としては、年間家賃上昇率の基準を定めて制限し、正当事由のない立ち退きを規制する、などが含まれるものが多い。戸建賃貸や築浅物件は適用除外する、といった適用範囲も独自に定められている。州全体に適用される規制を導入しているのが、オレゴン州とカリフォルニア州、そして特別行政区のワシントンDCである。州全体の規制はないものの一部の地方自治体が規制を行っているのが、メイン州、メリーランド州、ニュージャージー州、ニューヨーク州の4州。なお、カリフォルニア州では州規制の他に、サンフランシスコやサンノゼ、ロサンゼルスなど独自の規制を行う地方自治体がある。

 その一方で、テキサス州やジョージア州のように、州内の地方自治体が独自にレントコントロールを導入しないよう州法を定めている州も31州ある。これは、レントコントロールが自由契約の原則に反していることに加え、投資家が規制地域への賃貸住宅投資を見合わせるようになり、供給不足、そして賃料上昇を招く可能性があることを考慮したものである。功罪両面あるレントコントロールに関しては、現在も多くの州や地方自治体で議論されており、今後、方針変更される可能性もあるので注意が必要である。

 世帯数の増加で着実な住宅需要成長が見込まれる米国においては、レントコントロールのような規制だけでなく、アフォーダブル住宅と呼ばれる中低所得者向け住宅の拡充政策や、用途規制の緩和などを通じて新規供給を促進するような、供給サイドの政策が重要と考える。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2022.10.15 No.611」 寄稿)

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