豪州の新たな住宅ビジネス"BTR"は成長を加速させる次の段階に

海外市場調査部長 研究主幹     伊東 尚憲

 新たな住宅ビジネスとして豪州で注目されるBTRを取り上げる。BTR(Build To Rent)とは、賃貸専用に開発された集合住宅のことで、日本で言うところの賃貸マンションである。英国や豪州では民間賃貸住宅の8割強を個人オーナーが所有し、一棟物の賃貸マンションが少ない。こうした賃貸住宅市場の国において、従来の個人オーナーによる戸単位の賃貸住宅と区別するためにBTRと呼称されている。

 豪州のBTRストックをWEBサイトや各種リリースなど公表情報を集計する方法で調査したところ、国内外のプレーヤー30社による57物件がリストアップされた。完成予定年で集計すると、2022年末時点のBTRストックとして約0.5万戸が確認され、2024年には1万戸を突破、2025年には1.5万戸となる予定である。完成年不明のものあり、これらを含めると全体で2万戸を超えるBTRストックが確認された。賃貸専用マンション市場が存在しなかった豪州において、米系不動産会社主導によるBTR開発(2019年竣工)からスタートした豪州のBTRビジネスは、成長を加速させる次の段階に進んだものと判断している。

 豪州における今後のBTRビジネスを考える上で参考になるのが英国である。英国では、豪州よりも一足先にBTRビジネスが成長している。2013年の英国のBTRストックは約0.8万戸であったが、2022年には約9倍の7万戸超となっている。英国におけるこの10年間の成長を「プレーヤー」、「需要者」、「政府」の視点で考えると、まず「プレーヤー」が先導して高品質で設備も充実、安心して長期賃借できるBTRを開発・供給したことにより、新たな居住形態としてのBTRに対する「需要者」の認知度が高まり、積極的にBTRを選択する賃貸派が増加した。これを「政府」がBTR普及のための政策で後押しすることで、英国のBTRビジネスは成長してきた。

 豪州においても、「プレーヤー」が先導しBTRストックが0.5万戸に達し、「需要者」が目に見える形でBTRを認知できる段階まで進んだ。「政府」に関しては、州政府レベルではBTR保有税の軽減措置や、公有地の提供などの支援が行われているが、連邦政府レベルではGST(消費税)の取り扱いや、BTRへ投資する海外投資家への課税が重くなる問題など、解決すべき課題が残されている。個人による住宅所有優遇といったこれまでの豪州住宅政策からすると、法人が長期所有するBTRは異色の住宅である。しかし、法人や機関投資家による賃貸マンション所有は他国では一般的であり、住宅ストックを質・量両面から拡大、成長させ原動力ともなっている。豪州でもBTR普及のための政策支援をより積極化すべきである。

 最後に豪州のBTR市場の現在位置と、今後について、英国における成長過程を踏まえて試算する。豪州のBTRストック0.5万戸が民間賃貸住宅に占める割合は0.2%である。英国においてBTRが民間賃貸住宅の0.2%を占めていたのは2015年のことである。つまり豪州は英国から7年遅れでBTRが成長していることになる。英国ではその後、2015年から2020年の5年間でストックが4.8倍に、2020年から2025年(予想)にかけて2.7倍となる見通しである。これを豪州にあてはめると、2027年には2.5万戸、2032年には6.7万戸のBTRストックが見込まれることになる。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2023.3.15 No.625」 寄稿)

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