Amazonの物流網開放が加速させる米国物流施設の
選別

グローバル投資調査部 研究員   飯塚 希

 2026年5月、Amazonが発表した「Amazon Supply Chain Services(ASCS)」が、米国の物流業界を震撼させている。ASCSは、貨物輸送から配送に至るAmazonの物流機能を、あらゆる業種・規模の企業に開放するサービスだ。同社はこれまで自社マーケットプレイスの出品企業向けに同様のサービスを提供してきたが、提供範囲を出品企業以外にも拡大することで、3PL(サードパーティ・ロジスティクス)事業に本格参入する。この発表を受けて、FedExやUPSといった既存の物流大手の株価は、一時大きく下落した。

 ASCSは、その競争力の高さから3PL市場で大きなシェアを獲得していきそうだ。まず、Amazonには、米国だけで年間80億点超の商品を配送してきた、全米最大級の物流網という基盤がある。また、既に稼働している物流網の余力を活用できるため、サービス提供にあたっての追加投資が抑えられ、価格面でも優位に立ちやすい。加えて、委託先が分断されがちな輸送から通関、保管、配送に至るサプライチェーン全体にワンストップで対応でき、顧客にとっての利便性も高い。物流コストを抑えたい中小企業や物流業務を効率化したい大企業からの注目を集めており、P&Gや3M、Lands' Endといった米国の大手企業がASCSを既に採用している。

 ASCSのシェア拡大は、物流施設の賃貸需要には下押し圧力となる。ASCSを利用する企業の物流需要が、Amazonが運用する施設の余剰床に吸収されるからだ。Amazonが米国で運用する物流施設は約4.45億平方フィートと推計されており、稼働率は公開されていないものの、余剰床も相当にあるとみられる。加えて、在庫効率化が進むことで、利用企業が必要とする床面積の縮小も見込まれる。Amazonによると、複数の販売チャネル向け在庫を単一の在庫プールに集約した販売事業者は、必要在庫を平均20%削減できたという。

 ただし、こうした下押し圧力は、物流施設に一様に及ぶわけではない。例えば、自動化設備などが整った最新鋭の物流施設は、物流の効率化を求める3PL企業からのアップグレード需要や、ASCSの処理能力を拡大するAmazonからの将来的な需要も考えられ、需給は緩みにくい。また、米国のASCSは冷蔵・冷凍品など温度管理を必要とする商品の保管・出荷には現状対応していないことから、コールドストレージへの影響も限定的とみられる。一方で、標準的な保管・出荷需要を主な対象とし、自動化への対応も難しい旧式の汎用施設では、需要の流出によって需給が緩む可能性が高い。

 ASCSの台頭は、物流施設の優劣を測る基準に、「その施設の需要がAmazonの物流網に吸収されうるか否か」という新しい軸を加えることになりそうだ。ASCSに代替されにくい強みを持つ物流施設は安定した需要が続く一方、そうでない施設は需要が流出していく。結果として、物流施設市場における施設間の二極化が進んでいくと予想する。

関連する分野・テーマをもっと読む