2016年不動産市場の見通しと注目点

株式会社三井住友トラスト基礎研究所

 2016年の不動産市場の見通しは、一言で表現すると、概ね晴天なれど波高しと言えよう。賃貸市場は引き続き堅調、売買市場は価格が過熱気味で推移し概ね晴天続きと見込む。一方、世界の経済、政治、金融市場では不確実性が増しているため、様々なイベントによる市場の動揺を覚悟する必要がありそうである。注視すべきは、主に海外起点の不安定要素の不動産市場への波及と、国内要因として来年以降の消費税増税や政治動向を反映した変化の予兆となる。

2016年の国内不動産市場

投資調査第2部長 上席主任研究員
坂本 雅昭

 国内不動産価格は、緩和的な金融環境の継続と景気好循環による企業・個人の床需要の増加により、緩やかに上昇するとみている。特に、キャップレートの低下余地が少なくなってきたことから、賃貸市場の改善がどの程度のペースで進むかがポイントとなるであろう。
 不動産市場のメインセクターである東京オフィスについては、賃料の緩やかな上昇が続いているが、空室率が4%台前半まで低下しているわりには、賃料の上昇ペースが高まっておらず、今ひとつ盛り上がりに欠ける状況となっている。2016年は新規供給がやや多くなるものの、これまでの雇用増加が床需要として顕在化することで、空室率の上昇は小幅に収まり、賃料上昇ペースは若干高まると予想している。2016年の空室率の上昇が新規供給による一時的かつ小幅なものであれば、その後、緩やかながらも長い賃料上昇期間に入る可能性があり、2016年以降の動向を占う重要な一年となるであろう。また、旺盛な需要を背景に注目されるのは物流とホテルである。好調が続いている物流施設市場においては、東京圏、大阪圏ともに過去最高の大量供給となる見込みであり、潜在需要の強さを推し量る機会となるであろう。ホテルは訪日外国人需要の増加が継続すると見込まれ、東京、大阪、京都等の主要都市では客室不足が解消せず稼働率の高止まり、客室単価の上昇が続くと見込む。


2016年のJ-REIT市場

REIT投資顧問部長 研究主幹
河合 延昭


 J-REIT市場は、金融緩和継続による低金利環境のもと、利回り魅力に着目した資金流入の継続により、基本的には堅調に推移するとみている。J-REIT投資法人の運用状況では、保有物件の賃料上昇による利益成長(内部成長)の高まりが2016年の注目点である。
 J-REITの分配金成長は、2015年は旺盛な増資と物件取得による外部成長が主要因であった。2016年は外部成長がやや鈍化する半面、オフィスを中心とした内部成長要因が強まると予想。これにより着実な分配金成長が持続するとみる。主要セクターであるオフィスでは、継続的な市場賃料の上昇によって、保有物件の継続賃料と市場賃料とのギャップが解消、賃料増額基調が強まることで、既存物件の増収が徐々に利益向上のドライバーとなっていくだろう。また、ホテル運営利益に連動する賃料が上昇傾向にあるホテルも注目される。一方、J-REITの予想配当利回りは、足元3.5%程度で10年国債利回りとのイールドスプレッドは3%超だが、着実な分配金成長のもとで、世界景気への不安といった外部要因が和らげば、イールドスプレッドの縮小が想定されよう。ただし、金融市場全体でリスク回避姿勢が強まるような状況が続けば、昨年同様、ボラティリティの高い局面も想定され注意したい。
 不動産取引環境が過熱した水準にある状況下、J-REITの物件取得は一層難しくなるが、良好な資金調達環境を追い風に、積極的な取得姿勢が続くことも十分考えられる。ただ昨年来、市場には取得物件の質・価格への懸念も出てきている。長期的視野に立った慎重な判断と一層の厳選投資に期待したい。一方、物件の売却好機は続いており、ポートフォリオの質・収益性改善を企図した資産入替には引き続き注目している。


2016年の国内不動産私募ファンド市場(含私募REIT)

私募投資顧問部 副部長 主任研究員
前田 清能


 国内不動産私募ファンド市場は、緩和的な金融環境の継続と依然として高い国内外投資家の投資意欲を背景に、2016年は緩やかに拡大していくものとみている。特に注目すべきは、海外SWF、海外大規模年金基金ならびに国内公的年金による不動産投資動向である。投資対象物件のキャップレート低下余地が限定的となる中、キャピタルゲイン獲得を目指す投資家の投資機会は限られる一方、安定的な賃貸収入とその成長に期待する投資資金による不動産私募ファンド投資が進むことで、市場の健全な成長が持続すると考えられる。また、金融機関による貸出態度やLTV水準を含む貸出条件の動向も、国内不動産私募ファンド市場拡大にとって重要な鍵を握る。
 一方、不動産私募ファンド市場の健全な拡大には、優良な投資適格不動産の取得が不可欠である。不動産投資市場の過熱期においては都心の優良不動産の取得が難しいことから、投資対象となるプロパティタイプやエリアの多様化の進展が見られるが、特殊なプロパティタイプや地方物件は取引市場が小さく、市場の調整局面では急速に流動性を失う事態が想定される。投資対象となるプロパティタイプやエリアの動向を観察して、市場の過熱感を慎重に見通すことが重要である。
 2014年以降、急速に市場規模を拡大している私募REITは、2016年も、国内金融機関や国内年金基金による不動産投資資金の受け皿になるものと期待される。現時点で、新たに4投資法人が2016年中に運用開始を予定しており、引き続き銘柄数増加と資産規模の拡大が期待される。優良不動産の取得が難しい状況下、スポンサー企業との物件パイプライン等を活用し、質の高い外部成長をいかに図れるかが銘柄差別化の上で重要なポイントとなろう。


2016年の海外不動産市場

海外市場調査部長 主席研究員
伊東 尚憲


 ここ数年続いた主要先進国の不動産市場の好調と新興国の不調というトレンドに大きな変化は見込まないものの、2016年は変化の兆しが徐々に表面化してくると見ている。第一に、ニューヨークやロンドンなどこれまで好調であったオフィス賃貸市場の需給緩和である。需給タイトな市場を受けて新規供給の増加が見込まれる一方、経済成長率の鈍化や移転の一巡などでオフィス需要は伸び悩みやすい。需給動向が賃料に影響するタイムラグや、インフレ率の回復などで引き続き賃料上昇は見込めるものの、需給は変化の兆しを見せ始める可能性が高い。第二に、昨年後半から顕在化しつつある先進国住宅価格の二極化が進むことが見込まれる。低金利を背景に居住用の住宅需要(実需帯)は引き続き好調に推移することが見込まれるものの、主に投資用の都心住宅価格は、価格高騰による需要減少や新規供給の増加などで、横ばい傾向を強め、下落に転じる可能性も高い。第三に、不動産投資の変化である。米国や英国など景気回復の先頭集団への不動産投資人気は根強いものの、景気回復の遅れた欧州大陸の先進国などへの投資を積極化してくることが見込まれる。また、懸念材料は多いものの、オポチュニスティックな資金は新興国への投資を視野に入れてくる可能性もある。
 今年の注目点としては、米国における金利上昇ペースとインフレ率回復のバランス、英国のEU離脱懸念を巡る市場の波乱、地政学リスクや原油安による財政悪化などで中東資金の投資行動が変化する可能性、中国経済安定化への期待と反転した住宅価格の動向、などがあげられる。世界の政治、経済の不安定感の高まりもあって、注目点に懸念材料が増えている。


2016年の国内インフラ市場

投資調査第1部 上席主任研究員
福島 隆則


 2016年の公共インフラ市場は、4月から関空・伊丹で、7月から仙台空港で、10月頃からは愛知県の有料道路で、実際に民営化事業が始まる見込みのため、我々一人一人が公共インフラの民営化を実感する年になるだろう。これらの運営で大きな問題が生じず、民営化の利点が確認できれば、他の公共インフラの民営化の動きにも拍車がかかることだろう。実際、これらに続く動きとして、浜松市の下水処理場やいくつかの空港案件があるが、国内インフラ市場のさらなる発展のためには、上水道や社会インフラなど、対象となるインフラの広がりもポイントとなるだろう。個人的には、清掃工場・廃棄物処理施設や体育館・競技場の建て替え案件に注目している。
 一方、民間インフラについては、4月に電力小売りの全面自由化を控える中、引き続き再生エネルギー関連の投資案件が注目されるだろう。ただ、これまで案件の大半を占めてきた太陽光は買取価格が下げ続ける中、新規の開発案件ではなくセカンダリー案件に注目が移るだろう。春頃には東証のインフラ市場に最初の銘柄が上場する見込みであるが、それほど大きな流れにはならない可能性がある。太陽光以外の再生エネルギーである風力、地熱、バイオマス、小水力などへの広がりや、ESCO、蓄電池、水素エネルギーなどとの融合案件に、より期待が集まるかもしれない。個人的には、英国などで既に人気化している街灯などのLEDへの取り換え促進ファンドに注目している。

関連レポート・コラム

・(ニュースリリース)不動産マーケットリサーチレポート最新号 発行 日本の不動産市場の見通し ~緩和的な金融環境下で不動産取引市場サイクルは過熱期に突入する可能性も~ (2015年8月11日)

関連する分野・テーマをもっと読む