不動産市場・ショートレポート(8回シリーズ)
コロナ禍で不動産市場は何が変わったか④/賃貸市場(商業)

投資調査第2部 研究員 岩下 奈菜

足元の店舗売上は「生活必需性」で明暗も、コロナ収束後は「EC代替性」が回復ペースを左右する。

 小売業および飲食業の2020年の販売額は、コロナ感染拡大および緊急事態宣言を受け3~5月に大幅な減少となった。その後回復軌道に乗るも、11~12月は感染再拡大により再び下落基調に転じている。品目別・業態別では、小売業合計は前年比3.3%減に留まるが、飲食料品・日用品・衛生用品等の生活必需品や感染対策商品、およびIT関連機器や家具・DIY用品など、リモートワークや余暇関連商品が増加し、逆に衣料品や自動車、化粧品など外出関連品目は減少と明暗が分かれた。特に百貨店は、嗜好品の売上比率が高いのに加え、都心部の店舗では郊外からの移動距離の長さや訪日客急減の影響で売上が厳しく、年間販売額は全体で前年比25.5%減と急減した。飲食業は全体で前年比15.1%減だが、テイクアウト利用が多いファストフードは堅調な一方、夜間営業や宴会利用のウエイトが大きい居酒屋等の業態で売上減が大きい等、明暗が分かれた。

 こうした販売額の実態を踏まえると、コロナ収束までの短期では引き続き生活必需品や巣ごもり消費関連が堅調で、逆に嗜好品や外出関連が軟調となろう。ただし巣ごもり消費を背景にEC(電子商取引)販売が伸長し、小売業者自身も不採算店を閉鎖する一方でEC事業を強化しており、コロナ禍でECシフトが進んだ商品の販売が、コロナ収束後に再び実店舗に戻るとは限らない。店舗売上の回復の方向性を占うため、コロナ禍での「生活必需性」による短期的な売上影響と、コロナ収束後の「EC代替性」による中期的な売上影響をもとに、品目・業態別の特性を整理した。実店舗でサービス提供する飲食業やサービス業(美容・エステ・娯楽など)は、足元は売上減少もEC代替が難しいため、コロナ収束後は店舗売上の回復が見込まれる。小売品目の影響は多様だが、取扱店舗が住宅地立地で随時購入可能な生活必需品や、逆に高単価で接客による商品説明の必要性が高い自動車・家具・家電・医薬品等はECに代替されにくい。一方、多様な選択肢やSNSを使った商品情報等でECの優位性が高まる衣料品等では、店舗売上の回復は限定的となろう。

関連レポート・コラム

関連する分野・テーマをもっと読む