自然言語処理を用いたJ-REITのESG開示内容の時系列分析

REIT投資顧問部 副主任研究員   小西 勝也

要約・概要

  • J-REITの各投資法人やその運用会社によるESG取り組みの実施とその開示は既に当たり前のこととなっており、数年前と比べるとその開示情報量や実施するESG取り組みの数・種類等は格段に増加している。
  • 一方、足元ではJ-REIT銘柄の新規ESG施策導入の鈍化や決算説明会でのESG関連の説明時間短縮やIR等での投資家からの関心度低下、ESG関連の開示情報量の増加ペースの鈍化などが見られる。
  • 従来の分析手法によるESG関連データの収集や分析には、多くの人的資源や時間などが必要であり、ESG取り組み内容の時系列変化や鈍化の兆候などを機動的に捉えることは困難である。そこで、本稿では自然言語処理技術を用いた時系列分析を行うことで、このような課題を克服し、ESG開示内容の変化を定量的かつ機動的に把握することを目的に分析を行っている。
  • 分析に用いた手法は、①Dynamic Topic Model(DTM)によるトピックの時系列分析、②対応分析による各時点でのESG取り組みの特徴把握、③ESG関連語の記載単語数及び記載銘柄数の推移の分析、の3つである。分析期間は2025年6月までの6年間でJ-REIT全銘柄のESG開示資料を対象とした。
  • 分析結果から、ESG項目のうち、KPIやマテリアリティの特定といった推進体制の整備や気候変動対策に伴うフレームワークの整備などの項目が、一貫して話題性が相対的に高い取り組みであることが分かった。開示割合を比較しても、2019年6月時点では大枠でのESG推進体制構築やLED化など基礎的な取り組みが開示の中心で、また2023年以降は前述のKPIやマテリアリティの特定など、より高度な取り組みの開示割合が増加している。一方、従業員関連の取り組みに関する内容は、2021年6月時点まで話題性も高く、開示割合も増加したが、その後は話題性も開示割合も大きく低下している。全体の開示量については、2023年から足元2025年までについても緩やかに増加しているものの、2023年頃には増加傾向のピークを迎えており、開示内容の変化はそれ以前までと比べ限定的であることなどがわかった。
  • 本結果は、筆者がJ-REITの分析を行う上で日々感じているESG取り組みの傾向と概ね同じものである。従来の手作業により行う定性的な評価では、作業負荷の高さから詳細把握やESG開示内容の変化やその変化点を客観的かつ継続的に解析することは困難である。本分析のような自然言語処理技術を用いたESG取り組みの時系列分析は、そのような課題解決に十分に有用だと考えている。

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