私募投資顧問部 上席主任研究員
菊地 暁
自然資本を可視化する不動産投資の新潮流
要約・概要
近年、気候変動と並んで自然資本や生物多様性の劣化が、企業活動や資産価値、さらにはマクロ経済全体に及ぼす影響が顕在化しつつある。こうした中で国際的な情報開示の枠組みとして注目されるのが、2021年に設立されたTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)である。TNFDは自然資本と企業活動の依存関係や影響を評価し、自然関連リスクと機会を財務的に可視化する仕組みを提供する。不動産業界は土地利用や資材調達、都市開発といった事業を通じて自然資本との関係が極めて深く、TNFDの対象領域の中心に位置付けられる。日本では、国土交通省が2024年に創設した「TSUNAG(優良緑地確保計画認定制度)」が、自然資本を政策と市場の双方から支える新たな基盤として注目されている。これは民間の緑地整備を評価・認定する仕組みであり、気候変動対策、生物多様性の確保、地域住民のWell-being向上を同時に実現する制度として、不動産投資の新たな判断軸を提供するものである。さらに、CASBEEやGRESBといった既存の評価手法との連携が期待されており、自然資本への配慮は、投資家やデベロッパーにとって競争優位を形成する要件となりつつある。本稿では、TNFDと不動産投資の関係を整理し、日本における制度的枠組みの展開を踏まえ、自然資本を「見えない価値」から「評価可能な資産」へと転換する可能性について検討する。
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