堅調に推移する世界主要都市のオフィス市場

海外市場調査部 上席主任研究員     伊東 尚憲

 国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し(2014年7月時点)によると、世界の経済成長率予測は2014年+3.4%と、4月時点の予測から0.3ポイント下方修正された。寒波の影響などで米国が下方修正されたほか、中国はじめ多くの新興国で輸出や投資が伸び悩むなど成長率鈍化で下方修正されたことが要因である。主要先進国の中で2014年予測が最も高いのは英国で+3.2%、次いでカナダの+2.2%、ドイツの+1.9%、米国の+1.7%、日本+1.6%などとなっている。2015年の世界経済成長率は+4.0%(4月予測から修正なし)と改善が見込まれている。先進国は+2.4%と0.1ポイント上方修正される一方、新興国は+5.2%と0.1ポイント下方修正された。先進国では、米国の成長率が+3.0%と最も高く、英国+2.7%、カナダ+2.4%など、順調な回復が見込まれている。また、低迷が続いていたスペインの成長率も+1.6%(4月予測から0.6ポイント上方修正)と回復感が強まっている。

 こうした中、世界の多くの主要都市で、オフィス賃貸市場が堅調に推移している。ロンドン、フランクフルト、シンガポール、東京などの空室率は1年前と比べ低下した。景気回復を背景にオフィス需要の回復が見られることに加え、数年前の需給悪化の影響で、足元の新規供給が抑制されていることも空室率改善の要因である。これらの都市では、空室率の改善を受け、賃料も上昇傾向にある。一方、空室率の改善が見られないのはニューヨーク、パリ、上海などである。ニューヨークは足元、需要の伸び悩みが見られることに加え、ワン・ワールド・トレードセンター完成が影響している。パリは景気回復の遅れで需要が伸び悩んでいる。上海は需要の伸び悩みと新規供給増加が複合し空室率が悪化している。世界的な景気回復によって、オフィス需要の回復が期待されるものの、市況改善を受けて新規供給が増加する兆しも見えはじめており、賃貸市場の改善ペースは鈍化してくるものと見込まれる。

 オフィス賃貸市場の改善を背景に、主要都市のオフィス売買取引も活発である。英国や米国、ドイツなどでは、2014年第2四半期(4月~7月)のオフィス取引金額が前年同期比2ケタ増加となり、活況であった2007年頃の水準近くまで戻ってきている。ただ、世界的な投資資金の集中と取引増加によって、不動産価格は上昇し、売り物が減少しているようで、オフィス以外のプロパティタイプへの拡大や、首都から第二、第三の都市への投資拡大などが見られる。加えて、オランダやスペイン、オーストラリアなど、今後、景気回復が見込まれる国で不動産投資を拡大する、年金基金や不動産会社などが見られるようになってきている。

 基本的には、主要先進国を中心に、景気回復による賃貸市場の改善と、不動産価格の緩やかな上昇が見込まれる。ただし、先行して価格が上昇したロンドンやニューヨークなどでは高値警戒感も聞かれるようになっており、今後の賃貸市場の改善動向に加えて、金利動向なども見ながら、一進一退で価格推移する都市が増えてくる可能性が高い。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2014.9.15 No.335」 寄稿)

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