ESGファクターを読み解く

私募投資顧問部 主任研究員   菊地 暁

 ESGとは、E(環境・Environment)、S(社会・Social)、G(企業統治・Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉であり、ESG投資とは当該非財務情報を投資の概念に組み込むことにより、持続可能で長期的な収益を上げる投資手法をいいます。

 2006年に国連が「責任投資原則(PRI)」を提唱し、これに署名した機関投資家は投資分析と意思決定プロセスにESGを可能な限り組み込むこととなりました。その後、2008年のリーマン・ショックを契機として資本市場での短期的な利益追求に対する批判が高まり、改めてESGを意思決定プロセスに組み込んだPRIに注目が集まりました。2018年4月現在、PRIの署名数は1,961社となり、2006年比で30倍超に増加しています。

 不動産業界におけるESG投資の広がりの背景には、PRIを不動産投資に適用する考え方として国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)不動産ワーキンググループが公表した「責任不動産投資(RPI)」の普及のほか、国土交通省所管の環境不動産普及促進検討委員会による啓発活動、GRESB※1 参加者数の増加、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)によるESG指数投資の開始などがその主な要因と考えられます。

 そもそも我が国の不動産投資市場では、低炭素社会の実現と、長期的なサステナビリティの視点に立った環境不動産市場の形成が求められていました。そこでまず環境(E)ファクターが注目され、施策として環境不動産※2 の普及が促進されました。その後、東日本大震災を契機にレジリエント(強靱)な建築設計を求める声の高まりにより「安全・安心」のファクターが、さらには、テナントとの協働体制(グリーンリース等)も環境性能の維持・向上に不可欠であるとして環境不動産の概念に含められました。2018年3月には、国土交通省が設置した「ESG投資の普及促進に向けた勉強会」において、「働く人の健康性、快適性に優れた不動産」に関する議論が行われ、環境不動産の概念に「Health & Well-being」を含めることが検討されています。

 一方でESGファクターを整理すると、不動産とは直接関係がないファクターが数多く存在することがわかります。不動産に直接関わる事項は、圧倒的に環境(E)ファクターであり、企業統治(G)ファクターは見当たりません。つまり、概念的には環境不動産がESGに拡大したというよりは、金融・株式市場で普及したESGの潮流が不動産業界に波及し、不動産会社における商品である「不動産」を、主に環境(E)ファクターとして取り込んだというのが自然な見方となります(図表)。

 ESGの根底には、社会・経済・環境の持続可能性に関する危機意識、すなわち、気候変動、人権、食糧不足、地域格差、腐敗防止等の諸問題が経済全体の中長期的な成長の妨げになるとの考えがあります。これに加えて、2015年の国連サミットでは「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、貧困、飢餓、ジェンダー、教育、環境、経済成長、人権等、幅広いテーマをカバーした「持続可能な開発目標(SDGs ※3:Sustainable Development Goals)」が示されました。

 現在、年金等の長期投資家は企業側が開示するESG情報に注目し、上記の諸問題の改善・解決策を、企業とエンゲージメント(対話)しながら投資判断を行うことが一般的となりつつあります。そのため、不動産事業会社がESGを志向する投資家に対して中長期的な成長戦略を示す際には、不動産特有の環境(E)ファクターへの対応策に止まらず、SDGsをベースとして幅広い視点から抽出されたマテリアリティ(重要課題)の特定と、持続可能な企業価値向上に向けたビジョンの提示、そして、これらを実現するためのESG方針および具体的なESG取組状況の開示が求められています。

※1 責任投資原則(PRI)を主導した欧州の主要年金基金グループを中心に2009年に創設された、不動産会社・ファンドのESG配慮を測る年次のベンチマーク評価およびそれを運営する組織の名称
※2 環境性能(スペック)が高く、良好なマネジメントがなされている環境価値の高い不動産
※3 2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、策定された2016年から2030年までの国際目標。17のゴール、169のターゲット、232の指標から構成され、「地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指している。

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(一般社団法人不動産証券化協会「ARES 不動産証券化ジャーナルVol.46」 寄稿)

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