アジアREIT市場の最新動向―銘柄数は増加、海外不動産への投資も加速

海外市場調査部 主任研究員   安田 明宏

1.アジアで増加する上場REIT市場
 アジアでは、日本、シンガポール、香港の上場REIT市場が成熟した市場として知られている。韓国、台湾、マレーシア、タイが第2集団として一定の成長が見られる中、2019年から2021年にかけて、インド、フィリピン、中国で上場REIT市場が創設された。アジア以外の新興国・地域においても、2016年以降、サウジアラビア、バーレーン、ハンガリー、オマーン、クウェートなどでも上場REIT市場が始動している。
 REIT市場の創設と発展過程では、不動産(土地や建物)関連の法的整備、不動産市場の透明性の向上、金融市場の信用力の向上、投資適格不動産の増加、証券化税制の整備、専門家の育成、REITインデックスの開発など、数多くの問題や課題をクリアしなければならない。アジアや新興国・地域において上場REIT市場が増えていることは、不動産市場の整備・高度化が進み、投資商品としてREITの認知度が向上していることを示している。
 本稿では、早々に投資対象の多様化が見られる後発組のフィリピンと中国、そして海外不動産投資の増加と国際化の進展が見られる成熟組の香港とシンガポールをそれぞれ取り上げたい。

2.フィリピン
 近年REIT市場が創設された国・地域の中で、フィリピンは順調に銘柄数を伸ばしている。2020年8月に第1号REIT(Ayala Land系のAREIT)が上場したのを皮切りに、執筆時点で7銘柄まで増加している。
 フィリピンのREITの特徴としては、まず、財閥系の大手不動産デベロッパーがスポンサーになっている場合が多いことがあげられる。スポンサーの開発パイプラインを利用してREITの規模を拡大できる点や、安定した収益が期待できる優良立地の不動産を取得しやすい点で有利である。第2号のDDMPR(2021年3月上場)、第3号のFILRT(同年8月上場)、第4号のRCR(同年9月)、第5号のMREIT(同年10月上場)までの各REITは、スポンサーのパイプラインを通じ、マニラ首都圏にあるオフィスを中心に保有している。
 次に、第6号以降では、立地やアセットタイプが広がり、ポートフォリオの多様化が進んでいる。2022年2月に上場した第6号のCREITは、フィリピン各地の太陽光発電所を投資対象としており、同年6月に上場した第7号のVREITは商業施設10件を組み込んだREITである。今後もIPOが続く予定で、第8号として、電力・インフラ系のPremiere REITが2022年12月15日に上場した。今後を見ると、物流・産業用施設は近い将来REITに組み込まれる可能性が高い。2021年7月、外食のJollibeeは、不動産デベロッパーのDoubleDragon Propertiesの子会社で物流・産業用施設を保有するCentralHub Industrial Centersに出資すると発表した。CentralHubはREITとして上場する計画で、Jollibeeが食品加工や物流拠点として活用している20億ペソ(約46億円、1ペソ=2.3円で計算)規模の不動産をCentralHubに組み込む予定となっている。そうした中でも、賃貸住宅を組み込んだREITが誕生するには相当の時間が必要と見ている。フィリピンでは住宅購入ニーズが強く、賃貸住宅市場が未成熟であることがその理由である。

3.中国
 フィリピンに続いてREITが上場した中国でも投資対象となるアセットタイプやエリアに広がりが見られる。9銘柄で始動した2021年6月時点では、投資対象は有料道路や空港、電気やガス、水道などの関連施設、移動通信の基地局、倉庫や工業団地といった公共性の高いインフラ分野に限定され、対象地域は、長江経済ベルト(長江流域の直轄市および省)、京津冀(北京市、天津市、河北省)、粤港澳大湾区(広東省、香港、マカオ)が優先されるエリアとして指定されていた。この後、対象エリアは全国に拡大したが、アセットタイプへの追加は、充電ステーションなどのエネルギーインフラ施設、保障性賃貸住宅(社会保障的性格をもつ低所得者向けの賃貸住宅)、自然遺産・観光施設、駐車場などであり、引き続き公共性が高いものとなっている。保障性賃貸住宅については、上場REIT市場が創設される前から証券化に関する議論が進められていたことに加え、中国政府が保障性賃貸住宅の供給を拡大する方針を示したこともあり、2022年8月、保障性賃貸住宅を組み入れた3銘柄のREITが上場した。
 最近は、COVID-19感染拡大の影響で落ち込んだ不動産市場のテコ入れでREITを活用する機運も高まっており、REITを通じた資金調達やインフラ投資を拡大する方針が示されている。今後も、更なる市場規模の拡大とアセットタイプの多様化が見込まれるが、公共性の高さに重点が置かれるため、執筆時点ではオフィスや商業施設といった商用不動産への投資が解禁される可能性は低い。

4.香港
 成熟した香港REIT市場で注目される最近の動きとしては、海外への投資を積極化させていることがあげられる。香港のLink REIT(領展房地産投資信託基金)は香港最大規模のREITで(香港の上場REIT時価総額の60%程度を占める)、主に香港の商業施設(特に郊外の地元消費者向けの商業施設)を保有しているが、2015年以降は海外への投資を積極化している。2015年3月に北京の商業施設、同年7月に上海のオフィス、2017年4月に広州の商業施設、2018年4月に北京の商業施設、2019年2月に深圳の商業施設をそれぞれ取得し、まずは中国本土の不動産を皮切りにポートフォリオを拡大した。続いて2019年12月に豪州のシドニーでオフィス、2020年7月に英国のロンドンでオフィス、2021年11月に豪州のシドニーで商業施設3件、2022年2月に豪州のシドニーとメルボルンでオフィス5件をそれぞれ取得し、海外不動産への投資を加速化している。さらに、2022年5月には、中国本土の浙江省嘉興市と江蘇省常熟市で物流施設3件を取得している。
 Link REITの海外投資においては、投資対象を商業施設に絞っていない点が特徴的である。狭い香港では投資対象が限られているほか、キャピタルゲイン偏重の市場で投資利回りが低いこともあり、海外という「外部成長」に活路を求める姿勢が見て取れる。今後、Link REITは、投資先として香港の割合を縮小し、香港以外を拡大させる方針としている。

5.シンガポール
 シンガポールのREITでも海外不動産の取得が続いている。上場REITによる不動産取得状況をSGX Groupの「Chartbook: SREITs & Property Trusts(January 2023)」で見ると、2022年の上場REITによる不動産取得30案件のうち、シンガポール国内の不動産は5案件のみで、残りは海外不動産であった。海外の投資対象は、伝統的なオフィスや商業施設、賃貸住宅や物流施設に加え、ヘルスケア施設やデータセンターといったオルタナティブな資産まで幅広く見られる(例えば、Keppel DC REITによる中国・広東省にあるデータセンター2件の取得、Digital Core REITによるドイツのフランクフルトや米国のテキサス州ダラスにあるデータセンターの一部権益の取得、ParkwayLife REITによる東京や千葉、北海道にあるヘルスケア施設など)。投資先の国・地域も多様で、米国、欧州、豪州、日本といった先進国・地域だけでなく、マレーシアやインドといった新興国・地域も見られる。シンガポールの上場REIT市場は、今後も、規模を拡大しながら国際化と多様化が進んでいくと予想される。

(株式会社日本金融通信社「ニッキン投信情報 2022年12月19日号」掲載原稿から加筆修正)
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