商業施設テナントの収益特性と賃料リスク

投資調査第1部 客員研究員   大橋 卓哉

 商業施設テナントの収益特性は業種によってそれぞれ独特の傾向を有しており、収益性が高いエリアに立地する商業施設に出店していても、利益を上げられず苦しむテナントが見られる。その多くはエリアの収益性から形成される賃料水準が過大な負担となっているケースであり、施設運営側にとっては賃料下落リスクとなる。テナント企業は、出店戦略において売上最優先で高収益エリアに偏重しがちであるが、自社の収益特性を見極め、最適なエリア戦略によって売上よりも利益の最大化を目指すことが重要である。

商業施設の立地

 商業施設の収益性は、その施設がどのようなエリアに立地しているかで大きく異なっている。エリア特性が都心の高度商業地なのか郊外なのか、そしてそのエリアでは競合施設が多いのか少ないのかによって、商業施設の売上水準には大きな格差が生じている。

 そして、商業施設に出店するテナント企業は、同じような施設規模やテナント構成であれば、より高い売上を得られるエリアに立地している施設に積極的に出店しようとするし、そうした施設に出店していれば、景気の悪化などで多少売上が落ちたとしても、もともと高い水準の売上を確保しているので、安定的な店舗運営ができると考えてきた。

 しかし近年では、売上水準の低い施設だけでなく、むしろ高い施設の方でテナントの収支が悪化して賃貸借契約条件の変更が必要となったり、閉店して退去してしまったりするケースが見られるようになっている。こうしたケースを分析すると、その背景にあるのはエリアや施設全体の収益性と各テナント店舗の収益性の関係であり、その多くはテナントの賃料負担の問題として顕在化する。  

テナントの賃料と利益率

 収益性が高いエリアとは、具体的には「販売効率(月坪効率)」の水準が高い立地として認識される。販売効率は単位面積当りの収益性を示し、店舗の月商(平均月間販売額)を売場面積(坪)で割った数値として表される。販売効率が高いと店舗規模が同じでも(従業員数や売場面積が同じでも)売上総額が大きくなるため、売上から経費を差し引いた利益額も通常は大きくなる。これは施設全体で見てもテナントの各店舗で見ても基本的には同じであり、入居テナントの売上合計が施設全体の販売効率に表され、各施設の集積によってエリアの平均的な販売効率水準が形成される。

 一方で、テナントの利益率に着目すると、この販売効率が高いエリアほど利益率が低くなるケースがある。これは、販売効率が高いエリアは地価や賃料の水準も高いエリアであることが多く、テナントの売上と賃料のバランスで見た「賃料負担率」(賃料/売上)の水準が高くなることに起因している(図表1)。

 従来、エリアの販売効率が高ければテナント店舗の販売効率も高くなるため、賃料負担率が高い水準になることについてはあまり問題視されず、許容されることが多かった。

 しかし近年、エリアの販売効率が以前よりも低下しているケース、あるいは、エリアの販売効率に変化がなくても、そのエリアに出店する特定の業種・企業において販売効率が低下しているケースが多く見られるようになっている。

 テナントの賃料負担率は低い業種で3%~5%、高い業種では15%~20%を超える場合もあるが、いずれの業種においても賃料は経費項目の一つとして金額規模が大きく、かつ固定費的な性格が強いことから、販売効率が低下して売上が減少すると賃料負担率が上昇して利益率を大きく圧迫し、赤字が発生することもある。  

図表1 テナント販売効率と利益率のイメージ

 利益率が低下して店舗の維持が苦しくなると、テナントは以下のような対応を施設運営者に求めて店舗の存続を図るが、交渉が不調に終われば賃貸借契約を解約して退去することとなる。

 (1)契約面積の縮小による賃料減額
 (2)賃料単価の減額
 (3)売上歩合賃料(変動賃料)における歩率もしくは最低保証賃料の減額

 これは施設運営者から見れば、(1)は空いた面積を別のテナントに同条件で賃貸できれば賃料収入に変化はないが、(2)と(3)は賃料収入の減少をもたらすこととなる。

テナントの販売効率特性

 このような状況が生じる要因の一つとして、テナントによる収益特性の違いがある。
 立地エリアの平均的な販売効率が、郊外エリアから都心部の高度商業エリアまで、図表2のように10万円/坪ずつの格差で分布していたとする。これに対して、各エリアに立地するテナントの販売効率は業種によって水準・傾向ともに大きく異なっている。例として、3つの異なる業種の販売効率のイメージを示すと、図表2のように、これらはエリア販売効率の水準に対して比例的に相関するとは限らず、エリア販売効率が一定の水準を超えるとそれ以上は頭打ちになったり、逆にエリア販売効率を上回る伸びを見せるなど、テナント業種ごとに独特の傾向を有していることが多い。(※業種別の販売効率は単純化のため、実例よりも特徴を誇張して模式的に表現している)。

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 これらは、テナント業種・企業ごとの販売品目特性の違いや客単価の格差、集客・販売手法の形態の違いなどに起因している。一般的に、高額の買回り商品を扱う業種ではエリアの平均的な販売効率を上回る傾向を示しており(図表2のテナント①のイメージ)、飲食業やサービス業など時間消費型の要素が強い業種では、営業時間内における客の回転率に一定の限界があるため、エリア販売効率が高くなってもテナント販売効率はそれに比べて伸びなくなるケースが多い(図表2のテナント②や③のイメージ)。

 これに対して商業施設の賃料水準は、一般的にはエリア販売効率の水準と概ね比例的に相関している場合が多いが、エリアによっては物件の希少性やオフィス賃料の水準など、販売効率以外の要素が強く影響して形成されている場合もある。したがって、テナントによっては自社の店舗の収益特性とエリアの賃料特性のバランスをとることができずに、賃料負担の重さに苦しむ店舗が出てくることとなる。

テナントの収益性と賃料リスク

 こうしたテナントの収益特性の違いについては施設運営者側も認識しており、多種多様なテナントが出店するショッピングセンターなどでは通常、各テナントの面積規模や収益特性の違いに応じて様々な契約方式(固定賃料、売上歩合賃料、固定賃料+売上歩合賃料など)を設定している。よって、同じ施設でも賃料単価や賃料負担率の水準はテナントによって異なっており、施設運営者は施設全体の売上総額と賃料収入総額が最大化するようにテナントミックスを計画し、管理している。したがって、賃貸借契約時には通常、テナントにとっても無理のない賃料水準で合意がなされている。

 テナントの賃料負担が問題となるのは、出店エリア・施設全体・各テナント店舗のいずれかの販売効率に大きな変化があったときである。これらの販売効率を変動させる要因としては、商圏人口の増減や消費行動の変化など需要側の影響が大きい場合もあるが、近年の状況を見ると、エリア内で商業施設が急激に増えたり、同じ業種の店舗が集中して競合関係が激化し、集客数が減少して販売効率が低下している場合が多い。

 テナント企業は競合他社とのシェア争いの観点から、利益よりもまず売上を最大化しようとするため、出店に際してどうしても販売効率の高いエリアに目が向きがちであるが、その結果、実際の店舗の分布が自社の収益特性から見た最適なエリア配分に比して、販売効率の高いエリアに偏重しているケースが見受けられる。こうしたテナント企業は売上の減少に対して適応余力が少なく、出店エリアや入居施設の販売効率の変化の影響をより強く受けやすい状態になっている。

 継続的・安定的な店舗運営の観点でいえば、テナント企業は企業全体としての売上よりも利益額や利益率を最大化させる出店戦略(エリア配分)を考えていく必要があり、そのためには、自社の店舗の収益特性と出店エリアの販売効率特性・賃料特性との差異や関連性、さらには、出店後の販売効率の変化の状況を明確に見極め、新規出店や既存店の統廃合を考えていく必要がある。

 近年、こうした詳細なエリア特性分析の重要性を認識し始めた業種・企業がある一方で、既にエリアの販売効率特性や賃料特性の違いに柔軟に適応して多種多様な店舗業態を開発し、売上と利益の双方を拡大している業種・企業もある。

 従来、賃料減額のリスクは個別の施設内での問題(施設全体の販売力とテナント店舗の販売力の不均衡等)として捉えられることが多かったが、供給過剰エリアが増えている現状にあっては、各テナント業種・企業の収益特性とその最適なエリア戦略についても詳細に検討していくことが、賃料リスクを考える上で今後より重要になってくると思われる。  

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