ブリュッセル空港にみるインフラ投資家の覚悟とプライド

投資調査第1部 上席主任研究員   福島 隆則

 先月22日に起きたベルギー連続テロ事件で現場の1つとなったブリュッセル国際空港が、今月3日、一部再開した。一部とはいえ10日あまりでの早期再開に、「テロには屈しない」という関係者の熱い思いが伝わってくるようである。

 一方、これまでどちらかと言えばそうした熱い思いとは無縁、場合によってはやや社会性に欠けるとさえ思われてきた人達も、少なくとも空港などのインフラ資産に関する限り、本当はそうではないことが明らかになる機会が増えてくるかもしれない。その人達とは、金融投資家(フィナンシャルインベスター)のことである。

 ブリュッセル国際空港は、金融投資家が4分の3を所有している。空港事業の民営化は、日本でも今月から関西国際空港と大阪国際空港(関空・伊丹)で始まり、7月からは仙台空港でも始まる予定であるが、海外では1990年代から既に本格化している。ブリュッセル国際空港も、2004年、マッコーリー・エアポートが率いるコンソーシアムに70%の株式が譲渡され、民営化が始まった。その後、“空港アセットスワップ”などを経て、現在の筆頭株主は、39%を保有するカナダのオンタリオ州教職員年金基金(Ontario Teachers' Pension Plan:OTPP)となっている。これに、マッコーリーの2つのインフラファンドが(合計保有割合)36%で続き、残りはベルギー政府が保有している。

 日本のPFIに慣れ親しんだ人からは、「建設会社は株主に入っていないのか?」という声も聞こえてきそうであるが、運営段階に入ったインフラの株主がこうした金融投資家に代わっていくのは、海外では一般的なことである。先日も、米国の有料道路シカゴスカイウェイで、同じOTPPを含むカナダの3つの年金基金が、スペインの建設会社などに代わって新しい株主となることが発表されたばかりである。

 さて、ブリュッセル国際空港の筆頭株主であるOTPPは、テロ事件後即座に、哀悼の意とともに「可能な限りのサポートを行う」ことを表明。また別の機会では、「今回のテロ事件をもって我々のインフラ投資へのスタンスが変わることはない」と述べたそうだ。何とも凜としたコメントである。

 インフラ投資の本質は、あくまでも長期投資である。流動性リスクを犠牲にしつつも、長期安定したキャッシュフローからコツコツ稼ぐのが、典型的なスタイルと言える。それ故、長期の負債を持ち、投資ロットの大きな年金基金が好んでインフラに投資するのである。日本でも、関空・伊丹のコンセッション期間(民営化期間)は44年、仙台空港も最長では65年に及ぶ。

 一方で、これだけの長期となると、その間に今回のようなテロ事件や自然災害、疫病の発生など、カタストロフィックなリスクが顕在化する確率も高まる。しかし、インフラに投資をするということは、そうしたリスクと社会的責務を受け入れつつ、長期間でのリターンを追求するものである。そんな信念のようなものを、前述のOTPPのコメントからは読み取ることができる。それは、インフラ投資家としての覚悟とプライドと言えるのかもしれない。

 歩みを始めたばかりの日本のインフラ投資市場には、まだまだ学ぶことがたくさんありそうである。

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