ドイツ不動産市場の特徴と変化の兆し

海外市場調査部長 主席研究員     伊東 尚憲

 ドイツ不動産市場をみる上で最大の特徴は、都市が多極分散していることである。ドイツは歴史的経緯から連邦制を採っており、地域によって産業構造や文化などが異なっている。企業分布の例で言うと、Forbesの「世界の有力企業2000社(2017年版)」に51社のドイツ企業がランクインしているが、その本社所在地は最大のミュンヘンでさえ7社しかなく、ドイツの主要5都市(ベルリン、ミュンヘン、フランクフルト、ハンブルク、デュッセルドルフ)合計でも18社、全体の35%にとどまる。加えてドイツは中堅・中小企業が雇用全体の6割、付加価値額(GVA)の5割と大きな割合を占めており、こうした企業が地域に根ざして拠点を構えていることも、ドイツの多極分散を支えている。都市別の特徴を概観すると、ベルリンは政府関係や芸術・メディアが強く、最近ではIT企業も増えてきている。ミュンヘンは自動車、医薬品、保険、メディアなど業種が幅広く分散、所得水準も高い。フランクフルトは国際的な金融都市であるとともに交通の要衝でもある。ハンブルクはその立地から貿易、海運、造船などに特徴がある。デュッセルドルフは古くからの重工業地帯にあり製造業が強かったが、商業や金融、広告などの業種も見られる。日本企業も多い。

 ドイツ不動産市場はこれまで、安定的な市場として見られてきた。賃料変動や不動産価格変動が小さかったためである。しかし、最近は様子が異なっている。オフィス空室率はここ数年で急速に低下し、ベルリンでは2%台の空室率となっている。賃料はベルリンで前年比+17%、フランクフルトで同+8%など、各地で高い上昇率を記録している。好調な経済を背景に需要が旺盛なこと、新規供給が少ない状態が続いていること、そして都心部で住宅など他用途への転用が増えていることなどから需給が逼迫し、賃料が上昇したのである。なお、ブレグジットの影響でいくつかの金融機関がフランクフルトで賃貸床を拡大しているものの、その寄与は依然小さく、足元の需要拡大は好調な経済を背景としたものと言える。不動産投資市場では、キャップレートの低下が続いており、ミュンヘンの2.8%を筆頭に、主要5都市はすべて3.5%以下と、非常に低い水準となっている。賃貸市場の好調や低金利に加え、ブレグジット決定以降は欧州内での投資先分散からドイツへの投資需要が高まっていることが影響している。

 ドイツの不動産市場の特徴は、安定性を筆頭に、市場規模や透明性、流動性、資金調達といった点で優位にある市場である。ただ、足元の市場は好調だが過熱感も強まっており、不動産価格の下振れによる安定性の低下が懸念される。一方、足元の過熱はドイツの成長性が再注目されていることを示唆するものかもしれない。というのも、近年のドイツへの移民増加と子育て支援策などによって出生率が急上昇しており、これまで懸念材料とされたドイツの人口減少に歯止めがかかり、中長期的にドイツの成長性が再評価される可能性があるからである。加えて、経済好調による雇用難やコスト上昇などから、旧東ドイツ地域への企業進出が活発化していることも新たな成長の源泉として期待される。

株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー」2018.8.15 No.472 グローバルレポートに寄稿したものです。

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