パンデミック下の海外不動産投資

海外市場調査部 主任研究員   安田 明宏

 2020年は新型コロナウイルスが猛威を振るう一年であった。日本の投資家による海外不動産への投資においてもこの影響を避けることはできなかった。Real Capital Analyticsのデータを集計したところ(速報値ベース)、日本の投資家による海外不動産(オフィス、商業施設、賃貸住宅、物流・産業用施設、ホテル、開発用地の計6タイプ)への投資額は前年比-50.3%であった。日本の投資家による国内不動産への投資額(同-22.3%)に比べ、海外不動産への投資でより影響が大きかったといえる。

 海外不動産への投資額は前年から半減したものの、投資意欲が減退しているわけではない。優良案件であれば、国・地域、アセットタイプを問わず投資を検討したいと考える投資家は多い。投資を検討中の国・地域で新型コロナウイルス感染が深刻であったり、厳しいロックダウンや移動制限が敷かれたことで現地の業務スピードが落ちたりしたことによる半減とみられる。

 日本の投資家による海外不動産への投資額を国・地域別に見ると、近年の傾向から大きな変化は確認されない。2020年の投資額の大きい上位の割合を見ると、米国52.4%、中国9.4%、豪州8.7%、ベトナム7.5%、英国4.4%などであった。よく見る顔ぶれであり、取引実績を見る限りにおいては新型コロナウイルスの影響で投資先を変更する動きは見られなかった。

 アセットタイプ別に見ると新型コロナウイルスの影響が確認される。この傾向は世界的に見られ、感染拡大による人的移動・接触の制限で明暗が分かれた。オフィス、商業施設、賃貸住宅、ホテル、開発用地は前年比マイナスで、特に商業施設は同-94.2%、ホテルは-81.7%と激減した。一方、物流・産業用施設は同+261.8%と好調であった。人的移動・接触の制限の反動需要としてEコマースの拡大、新型コロナウイルス関連製品(医薬品、衛生用品など)の生産増が後押ししたと考えられる。

 2021年の日本の投資家による海外不動産投資は新型コロナウイルス感染状況次第で決まるといってよい。ワクチン接種が本格化している国・地域もあり、収束への寄与に期待が寄せられるが、効果が出るにはなお時間を要する。感染状況も国・地域によって異なり、一様な収束は困難な情勢である。収束後の不動産需要も、新型コロナウイルス感染を避ける「新しい生活様式」の浸透でどれぐらい変化したものになるかも国・地域によって異なる。当面、投資先の国・地域に広がりは見られないと予想するが、各国・地域の感染状況を鑑みながら投資を検討する中で、慎重にならざるを得ない局面もあるだろう。

 一方、パンデミック下でも不動産需要が確認されたアセットタイプは選好されやすくなる展開となろう。衣食住という日々の営みが途切れることはなく、物流施設では「新しい生活様式」下の需要増が期待される。働き方、暮らし方の変化でより広い住宅や郊外の住宅に注目が集まるようになり、金融緩和策は住宅購入を後押している。分譲住宅開発への投資のほか、新しい生活様式に対応できる賃貸住宅への投資も見られると予想する。また、リモートワーク環境や通信教育の需要増を受けて、データセンターに注目する投資家も出てくるだろう。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2021.2.15 No.556」 寄稿)

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