中国:人口動態から見る今後の住宅市場

海外市場調査部 主任研究員   安田 明宏

 中国では10年に一度、人口に関する国勢調査(人口センサス)が実施されている。2020年はその年にあたり、人口動態に注目が集まった。結果は2021年5月に発表され、将来的な人口減少が差し迫ってきていることや少子高齢化の加速、都市化の進展が示されるものであった。本稿では、最新の中国の人口動態をまとめ、今後、住宅市場で注目されそうな点をとりあげる。

 国勢調査の結果によると、2020年の総人口は14億1,178万人であった。2010年の前回調査から7,206万人増加したものの、2020年までの10年間の年平均伸び率は、2010年までの10年間の+0.57%から+0.53%に低下した。遡及修正後の2019年の人口は14億1,008万人で、2019年から2020年の1年間で増加した人口はわずか170万人であった。
国連の推計では、中国の人口がピークとなるのは中位推計で2031年、低位推計で2024年である。しかし、国家統計局によると、出生率(人口1,000人に対する出生数の割合)と死亡率(同死亡数の割合)の差で示される人口の自然増加率は、2020年に1.45‰(パーミル:1,000分の1)と過去最低水準となり、2022年1月18日に同局が発表した2021年の自然増加率は0.34‰とさらに低下している。人口の自然増加はほぼ横ばいといってよく、国際的な人口流入である社会増加が限られる中、人口のピークは国連の低位推計よりさらに前倒しとなる可能性が高まっている。

 人口減が差し迫る中、少子高齢化も加速している。中国の少子化の最大要因は、長年にわたって採用されてきた「一人っ子政策」である。2015年末に一人っ子政策が廃止されたこともあり(2016年以降は「二人っ子政策」)、2020年の国勢調査では、全人口に占める年少人口(0~14歳)の割合は前回調査(2010年)の16.6%から18.0%に上昇した。しかし、2020年の出生率は8.52‰と過去最低水準となったほか、一人の女性が一生の間に産む子供の人数に相当する合計特殊出生率も1.3と低く、少子化に歯止めがかからない情勢にある。

 2021年8月には1組の夫婦が3人目の子どもを出産できるようになったが(「三人っ子政策」)、今後、年少人口の増加に寄与するかどうかは不透明である。出産や育児、さらには学齢期以降の教育にかかる費用がかさむようになっていることから、子どもをさらに産んで育てることが困難になっている。住宅価格の高騰は家計を逼迫させる一因となっており、子どもに向ける支出を増やすことができなくなっている。結婚観や家庭観の多様化も少子化に影響しているようだ。

 2020年の国勢調査では、高齢化の加速も鮮明となった。60歳以上の割合が2010年の13.3%から18.7%に、65歳以上の割合は8.9%から13.5%にそれぞれ上昇している。年少人口と高齢人口の割合がそれぞれ増加したため、生産年齢人口の割合は低下している。平均寿命が伸びていることも高齢化に拍車をかけていると考えられる。2021年12月に国家統計局が発表した「中国女性発展綱要(2011~2020年)」の最終統計報告によると、2020年の女性の平均寿命は80歳を超えて80.9歳となった。

 都市部と農村部の人口割合を見ると、都市化の進展が窺われる。2010年の都市部人口は49.7%であったが、2020年は63.9%まで上昇した(いずれも常住人口ベース)。2014年3月、中国政府は「国家新型都市化計画(2014~2020年)」を発表、都市化率を 2020 年までに常住人口ベースで60%前後、戸籍人口ベースで 45%前後に引き上げるという目標を設定していた。都市部人口の割合は60%を超えており、常住人口ベースでの政府目標は達成されたといえる。

 一方、戸籍人口ベースでの都市化は道半ばの状況にある。中国の戸籍制度は、教育や医療、社会保険など社会保障全般に深く関わっており、農村部では社会保障が不十分であるといわれている。農村戸籍者が都市で暮らしていたとしても、都市戸籍者とならない限り、その都市で提供される社会保障を享受するこができない。こういったことから、都市戸籍への切り替えを望む農村戸籍者は多い。人口規模の小さい都市では戸籍制限を廃止する方策が採用されていたが、2019年3月には常住人口が300万人未満の都市において戸籍の取得制限を全面撤廃する方針が示され、2021年4月には同内容が改めて明確化された。今後は戸籍人口ベースでの都市化も進んでいくものとみられる。

 今後、人口動態の変化は住宅市場に変容をもたらすと考えられる。まず、人口減少と少子化による影響を考えると、「住宅購入は結婚の大前提」という考え方は根強く残るものの、ライフスタイルの変化を通じて、求められる住宅の種類が多様化するとみられる。例えば、一世帯あたりの人数は2010年の国勢調査では3.10人であったが、2020年は2.62人と減少傾向にあることを考えると、今後は、小型の住宅が求められるようになったり、家庭を中心とする住居から仕事の状況や業務のスタイルに合わせて住居が選ばれるようになったりすることが予想される。また、住宅価格の高騰や住宅ローンの負担増などから住宅購入をやめ、賃貸住宅での暮らしに切り替える動きも広がるだろう。中国政府は、賃貸住宅市場の拡大、育成に注力する方針を示しており、将来的には、「住宅は購入して住むもの」という考え方から「住宅は借りて住むもの」という考え方も受容されるようになるとみられる。

 高齢化も住宅需要を変化させる要因となろう。家族や親族が高齢者の世話をするのが当たり前であるという風潮は根強いものの、頼りにできる家族や親族が遠方にいたり、世話に時間を割くことができなかったりするケースが増え、介護や生活支援を受けられる高齢者向けの住宅に対する需要が高まるとみられる。寿命が伸びていることも需要増に寄与するだろう。既存の住宅においても、エレベーターが設置されているものや住居内がバリアフリー化されたもの、医療サービスが受けやすい立地にあるものなどが求められよう。2020年7月、中国政府は全国39,000カ所、700万世帯の老朽化した集合住宅の改修や再開発に着手し、2025年までに改修を終える目標を発表している。

 都市化の進展により、今後の住宅需要は、すでに成熟して成長余地が少なくなった大都市から人口増加が見込める中小規模の都市にシフトする見込みである。中小規模の都市で常住人口が増加し、さらには農村戸籍から都市戸籍への転換が進めば、それだけ住宅市場の拡大も見込まれる。全国規模で「住宅をとにかくつくる」、「住宅はつくれば売れる」という高成長時代の再来には期待はできない。成熟した大都市では住宅開発の機会が減少し、都市化が発展途上にある中小規模の都市が住宅開発の舞台となるだろう。大規模な住宅開発であるほどその傾向が強くなるものとみられる。

 大都市においては、多様化する需要に適応する住宅の供給が加速化するだろう。前述の賃貸住宅を例にとると、政府が供給する中低所得者向けの賃貸住宅以外では、個人投資家が保有する住宅が賃貸に出されるもの(分譲賃貸住宅)がほとんどであった。今後、賃貸住宅市場の拡大で賃貸需要が増加すれば、まとまった規模で不動産デベロッパーや投資家が保有、あるいは管理する賃貸住宅も増加すると考えられる。今後、賃貸住宅市場が拡大するには、「住宅は借りて住むもの」という考え方の浸透や物件管理のクオリティの向上に加え、キャピタルゲイン偏重だった住宅投資市場にインカムリターンの考え方を根付かせることも求められよう。安定したキャッシュフローに期待ができる市場形成が必要である。2021年6月に発足した中国版上場REIT市場は、現在は投資対象がインフラ関連に限定されているが、将来的に投資対象が商業用不動産にまで拡大されれば、賃貸住宅市場の拡大に寄与するかもしれない。

 人口動態の変化を受け、中国の住宅市場は大きな転換点を迎える。今後は、人口増に支えられた全国規模の市場「拡大」局面から、大都市から中小都市へ、持家から賃貸へ、大型住宅から小型住宅へなどの「多様化」局面にシフトしていくことが予想される。

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