不動産市場・ショートレポート
新たな危機・新たな環境と不動産市場③/賃貸市場(オフィス)

投資調査第2部 主任研究員   川村 康人

東京都心5区の賃貸オフィス市場では断続的な大量供給が続く見通し

 各開発計画の公表情報をもとに今後のオフィス供給を集計すると、2022~2030年の9年間では、160万坪を超える賃貸オフィス床が供給される見通しである。これらのうち、約7割の開発が国家戦略特区の指定を受けており、リニア中央新幹線や羽田空港の国際化(空港アクセス線)など、大型インフラ開発と合わせて、東京駅~品川駅間を中心に大型の供給が続く見通しとなっている。

オフィス需要のドライバーとなる南関東圏の就業者数は2020年代後半に頭打ちとなる見通し

 賃貸オフィスビルのストックは、2021年末時点で780万坪を超える水準となっているが、今後、2022~2030年には160万坪の新規供給が予定されている。将来のストックの純増幅は、新規供給の合計面積から、築古ビル等の貸し止めに伴う滅失面積の合計を引いた水準となるが、過去平均より多めの滅失を見込んだとしても、2030年までにはストックは850万坪を超える水準(2021年末比で+10~15%)まで増加する見通しである。

 これに対して、将来の南関東圏の就業者数は、低水準の失業率継続や、労働力率の一段の上昇に加えて、南関東圏への人口流入の好影響を見込んだとしても、日本全体の人口減少の影響が徐々に足かせとなり、2020年代後半には就業者数の伸びが頭打ちから緩やかな減少に転じる見通しである。このため、就業者数の観点からは、東京都心5区の賃貸オフィス市場の需給バランスは中長期で緩和しやすいと考えられる。 需給バランスの予測においては、これらの要素に加えて、企業の1人あたりオフィス面積の増減(テレワークの影響)や、新規賃料の割高感・割安感による需要喚起の効果(潜在需要の顕在化、都心5区外⇔5区内への企業転出入)なども考慮する必要がある。企業の1人あたりオフィス面積(テレワークの影響)は、東京では短期的にオフィス需要の押し下げ圧力となる一方で、新規賃料の割安感による需要喚起はオフィス需要の下支えになると考えられる。また、長期の需給バランスを見通すうえでは、東京一極集中是正、首都圏の住宅価格安定化、環境規制の導入などの各種政策が与える効果も重要な要素となるだろう。

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