不動産市場・ショートレポート
新たな危機・新たな環境と不動産市場①/環境の変化を俯瞰する

投資調査第2部長 理事    坂本 雅昭

現時点ではロシア・ウクライナ危機による日本の不動産価格への影響は弱いと見ているが、構造的には、期待利回りに上昇圧力がかかりやすいコンディションに変化。

 2020年に新型コロナ危機が発生してから約2年半が経過。新株によって感染の波が繰り返されることで、コロナ禍はなかなか収束しない。不動産価格の構成要素である賃貸キャッシュフローと期待利回りに分解して考えてみると、新型コロナ危機は賃貸キャッシュフローを通じて不動産価格に低下圧力をかけてきた。具体的には、外出・営業自粛やインバウンド需要消滅は、ホテルや都心型商業施設の売上を減少させ、施設の賃料収入を低下させた。テレワークの拡大は、企業が利用するオフィス床面積を縮小させ、オフィスビルの賃料収入を低下させた。しかし、新型コロナ危機が期待利回りに与える影響は、賃貸キャッシュフローへの影響と比べて小さかった。そのため、コロナ禍でも不動産価格は一部を除いて堅調に推移した。

 コロナ禍が収束しない中で、2022年には状況をさらに悪化させるように、ロシア・ウクライナ危機が発生した。ロシア・ウクライナ危機は、社会・経済に様々な影響をもたらすが、不動産への影響としては、海外を中心とした、①物価上昇、②金利上昇、そして国内外の金利動向の違いから生じる③円安の三点が、重要であろう。ロシア・ウクライナ危機は、新型コロナ危機と比べると、構造的には、実体経済(コスト上昇による景気減速)だけでなく、金融市場にも影響を及ぼしやすい。期待利回りに上昇圧力がかかりやすいコンディションに確実に変化した点を深く認識すべきであろう。実際には、世界の株式や債券の価格は下落に転じたが、これらの動向は今のところ日本の実物不動産市場には波及していない。安定的なインカムを期待できる不動産への投資需要は根強く、中でも金利上昇が小幅であり、円安による割安感の強い日本の不動産への投資需要が堅調だからだ。ただし、世界の株式や債券の価格が一層下落した場合には、相対的に高くなりすぎた不動産投資の比率を縮小する投資家の動きが出てくる可能性がある。三井住友トラスト基礎研究所がメインシナリオとして想定している物価・金利の上昇度合いにおいては、期待利回りへの影響は限定的と考えているが、リスクシナリオも考慮した投資行動が必要になってきている。

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