不動産市場・ショートレポート(8回シリーズ)
アフターコロナでの新しい不動産市場①/新型コロナウイルスの影響

投資調査第2部長 研究主幹    坂本 雅昭

新型コロナウイルスの影響は、不動産投資市場よりも不動産賃貸市場において大きく、両者の動向は乖離。

 現在、不動産価格は収益還元法で算出されることが一般的であり、具体的には賃貸純収益(=収入-費用)を還元利回りで割り戻して算出される。賃貸純収益は賃貸市場(スペースマーケット)によって決まるもので、実体経済と密接な関係にある。一方、還元利回りは投資市場によって決まるもので、金融市場と密接な関係にある。

 2008年の世界金融危機は、アメリカのサブプライムローンの不良債権化が端緒となった。つまり、危機の震源は金融市場にあり、ここから実体経済へ影響が波及していったと捉えることができる。そして、危機の影響は震源に近い金融市場で大きく、不動産市場においては還元利回りが大幅に上昇、これに実体経済悪化による空室率上昇・賃料下落が重なり、不動産価格は下落した。一方、今回の新型コロナ危機は、ウイルス感染症の流行を受けた経済活動の停滞に起因している。危機の影響は震源である実体経済で大きくあらわれ、不動産市場においては賃貸純収益の低下が不動産価格の下落の要因になる。

 実際に、東京都心5区のオフィスビルを例に、賃貸市場(代表指標:空室率)と投資市場(代表指標:期待利回り)の動向を見てみると、世界金融危機の際には、空室率と期待利回りがともに大幅に上昇しており、賃貸市場と投資市場の両者が価格下落要因となった。一方、新型コロナ危機では、空室率が大幅に上昇しているものの期待利回りは上昇しておらず、両者の動向は乖離している。低金利環境下における潤沢な投資資金が不動産市場に流入しており、空室率が悪化しても期待利回りが変動しない市場を形成していると考えられる。この動向は、投資資金が不動産価格を強固に下支えしている状況を示しているが、空室率と期待利回りの乖離からはやや過熱感も感じられる。米国を中心に金融正常化に向かう局面に入っており、日本の不動産市場における投融資資金の動向に変化が生じないか、注視が必要な時期にある。

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