転換点を迎えた中国資本による海外不動産投資

海外市場調査部 副主任研究員   安田 明宏

 近年、中国資本による海外不動産への投資が拡大している。中国資本による世界各地のランドマーク不動産の取得が相次ぎ、一気に世界の不動産市場を席巻する存在となった。

 この中で、資本規制が強まっている。人民元の上昇圧力が弱まった2014年以降、中国政府は外貨準備を利用して人民元を買い支え、急落を回避させてきたが、外貨準備の減少が資本流出を招き、人民元の切り下げ圧力がさらに高まるという悪循環が生じている。2016年11月、中国政府は、資本移動の管理を厳格化するコメントを発表、海外不動産への投資の動きに注視する姿勢を示した。これを受けて、中国資本による海外不動産への投資は転換点を迎えた。

 2017年以降、中国資本による海外不動産への投資は減速傾向にある。大連万達集団が豪州のシドニーで進めている再開発プロジェクト(One Circular Quay)の売却を進めているとの報道があったほか、安邦保険集団が米国のニューヨークで保有するホテル(Waldorf-Astoria)を売却するとの憶測も広がった。特に、過去数年で大規模な海外投資を行った企業に圧力がかかっているようだ。3月には海外投資に関する包括的な規制が発表される見通しとの報道があり、どのような形の規制となるのか注目が集まっていた。

 中国政府は、8月4日付で企業の海外投資に関する「政策意見」を発表した。この中で、海外投資を「奨励類」「制限類」「禁止類」に分類し、海外投資の方向性を包括的に規定した。同月18日の記者会見では、「一部の企業が無理な海外投資をおこなって経営難に陥るケースがあり、資金流出の増加が金融システムの安全を脅かしているだけでなく、中国の対外的な印象を悪くする可能性があり、政策による海外投資の規範化が必要」との見解を示した。

 今回の政策意見の中で、海外不動産は、外交の方針やマクロ経済政策にそぐわない部類である「制限類」に位置づけられた。「禁止類」であれば海外不動産への投資が一切できないという意味になるので理解しやすいが、「制限類」に入っているので投資が可能なケースもある、ということになる。実際の具体的な判断基準は政策意見の中では触れられていないため、是々非々の対応ということであろう。中国政府が資金の蛇口を握り、政治的な動きの中で海外不動産への投資の許認可が決まるということである。

 政策意見の発表前に、これまでの海外不動産への投資を整理するよう求められた企業は、今後の海外投資の許認可で不利になる可能性がある。また、どの企業についても、投資の許認可の取得に時間を要する可能性がある。しかし、上記の記者会見の見解のように無秩序な海外投資は問題であり、政策意見が出されたことは、今後の中国資本による海外不動産への投資を長期的、持続的なものにする第一歩として評価されよう。

 選別された資本が海外に向かうようになるということは、中国資本による海外不動産への投資が規制の緩い黎明期を抜け出して、次のステージに移行することを意味する。マクロ政策の機敏な変化をモニタリングすることが肝要であろう。そして、今後の中国資本による投資の事例から、海外不動産への投資に対する中国政府のスタンスが明らかになってくるだろう。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2017.9.15 No.440」 寄稿)

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