海外REIT市場の現状と見通し(新興国・地域)
~市場の安定性と質的・量的成長が課題に~

海外市場調査部 主任研究員   安田 明宏

 前々回(3月11日号)、前回(3月18日号)で取り上げた米国、欧州、豪州のREIT市場と比べ、新興国・地域のREIT市場は概して規模が小さいが、将来的な成長期待やオポチュニスティックな志向を持つ投資家にとって有力な投資対象となっている。近年、REIT市場を設立する新興国・地域も増えており、市場の拡大に期待が寄せられている。日本においては、新興国・地域のREITを組み入れる投資信託の数は限られているものの、投資ニーズの多様化に合わせて、今後は注目が増していくことも予想される。本稿では、新興国・地域のREIT市場の現状を概観し、今後の課題について触れる。

1.アジア新興国・地域のREIT市場

 アジアのREIT市場といえばシンガポールと香港がメインであるが(両REIT市場については、2018年5月28日号掲載の拙稿を参照されたい)、タイやマレーシア、台湾や韓国などにもREIT市場が存在する。この中で、タイとマレーシアが主なアジア新興国・地域のREIT市場として位置づけられるだろう。
 タイのREIT市場は、上場銘柄数が執筆時点(2月末現在)で60近くあることと、セクターが細分化されていることが特徴である。従来の不動産ファンド制度(PFPO)と新しいREIT制度が混在しており、現在、PFPOからREITへの転換が進みつつある。ほとんどが特化型となっているが、投資対象は多岐に渡り、産業用施設(物流や工場)やオフィス、商業施設に加え、空港やMICE施設(ミーティング、インセンティブツアー、コンベンション、エキシビションの総称)といった特殊なオペレーショナルアセットも見られる。
 マレーシアのREIT市場では、上場銘柄数は18と比較的少なく、3分の1が分散型、3分の2が特化型である。投資対象はオフィスと商業施設が多いが、病院といったオペレーショナルアセットも見られる。特徴としては、イスラムREITが4銘柄含まれていることがあげられる。イスラムREITは、シャリーア(イスラムの教義)に準拠しない資産への投資が禁止されている。国民の3分の2がイスラム教徒であることがイスラムREIT組成の土壌となっている。
 台湾のREIT市場では、7銘柄が上場しており、このうち分散型が5銘柄、特化型が2銘柄となっている。すべてのREITがオフィスを投資対象に含んでおり、商業施設を含むものも多い。台湾の大手金融グループがオリジネーターとなってREITを組成し、そこに物件を売却するという方式が主流である。
 韓国のREIT市場は、上場銘柄の数、規模ともに小さいが、非上場REITの数が多いことが特徴である。ベトナムのREIT市場は、2017年にREITが初上場したものの、その後の大きな発展は見られない。
 他のアジア新興国・地域では、インドにおいて2019年にREITが初上場する見通しとなっている。中国やインドネシアでもREIT市場の整備が進みつつあり、REITを上場させようとする動きが散見される。

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2.その他新興国・地域のREIT市場

 アジア以外の新興国・地域では、南アフリカやブラジル、メキシコやトルコのREIT市場規模が比較的大きい。
 南アフリカのREIT市場では、執筆時点で26銘柄が上場している。このうち、上位2銘柄が時価総額の37.7 % を占め、上位10 銘柄が77.0%を占める。26銘柄のうち特化型は6銘柄で、投資対象は商業施設が3銘柄、住宅、ホテル、産業用施設がそれぞれ1銘柄である。その他はすべて分散型となっている。投資先は国内のほか、アフリカや欧州などにも投資している。
 ブラジルのREIT市場は、従来の不動産投資ファンド(FII)が上場したものがREITとして認識されている。市場規模ではタイやマレーシアと同程度であるが、銘柄数が多い割に1銘柄あたりの保有資産規模は小さい。もともと1ファンドに1物件がぶら下がっていたことが要因であろう。もっとも、近年、上位銘柄の物件保有数は増えつつある。
 メキシコのREIT市場は、ブラジルのREIT市場と同程度の規模であるが、上場銘柄数は15と少ない。このうち、上位2銘柄で時価総額の60%を占める。分散型、特化型ともに存在し、特化型の投資対象は産業用施設やホテルが比較的多い。
 トルコのREIT市場では、31銘柄が上場している。上位2銘柄で市場規模の半分近くを占める。不動産投資法人(REIC)制度をもとにREIT市場が形成され、不動産開発を行うREICが多い点に特徴がある。
 他には、中東のサウジアラビアやアラブ首長国連邦、バーレーンやイスラエル、アフリカのケニアなどにもREIT市場が設立されている。

3.新興国・地域のREIT市場における課題

 新興国・地域のREIT市場は概して歴史が浅い。どの市場においても、安定性と質的・量的な成長が大きな課題といえる。
 まず、不動産市場の透明性や安定性の向上が求められるだろう。新興国・地域の場合、国・地域としての安定性そのものが問題となる場合もある。政策変更リスクが高いと安定した投資は困難である。登記制度や不動産取引での安全性、情報公開度、公平・公正な鑑定評価制度なども必要となろう。不動産市場の透明性や安全性の向上は、海外からの投資資金を増大させる役割も果たす。
 次に、賃貸市場の成長が必要であろう。新興国・地域では人口の増加や経済の成長により、不動産に対する需要が増加する傾向にある。こうした環境のもとでは、賃料収入以上に資産価値の上昇が期待されるため、長期保有で安定した賃料収入を求めるREITが広がる余地は小さい。国・地域内外の安定した企業の入居と、そこから得られる賃料収入が期待できる投資対象が「投資適格不動産」となる。投資適格不動産の数が増えなければ、REIT市場の拡大は限定的なものになろう。
 現在、世界の不動産市場に向けられる投資資金は、投資利回りが低下する中、欧米を中心に安定した賃貸収入が期待できるコア物件を選好している。新興国・地域の不動産市場に高い関心を示す投資家の数は少ない。新興国・地域のREIT市場にとって、上記の課題をクリアし、銘柄数の増加、市場規模の拡大を通じてトラックレコードを積み重ねることが、投資先としての魅力度の増大につながるだろう。

(株式会社日本金融通信社「ニッキン投信情報 2019年3月25日号」 寄稿)
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