海外REIT市場の現状と見通し(豪州・欧州)
~M&A動向に注目、ドラスティックな再編も~

海外市場調査部 副主任研究員   風岡 茜

 グローバルREITの5大市場は、米国(約120兆円、全体の約6割)、日本(約14兆円)、豪州(約10兆円)、フランス(約7兆円)、英国(約7兆円)である(2019年1月末時点)。前回(3月11日号掲載)は米国を取り上げたが、本稿では規模面で米国、日本に次ぐ豪州と、フランスや英国を含む欧州のREIT市場を取り上げ、その現状や見通しを整理する。

豪州REIT

1.豪州REIT市場の概要

 豪州では、当初は上場プロパティ・トラスト(LPT)との呼称で1971年から親しまれてきたが、2008年に米国や他のREIT市場と平そくを合わせA-REITとなった。
 豪州REITには、外部運用型の「信託型」と実質的に内部運用型と同様の効果がある「ステープルド証券」の2種類があり、ステープルド証券では、信託に「ホチキス止めされた(=Stapled)」不動産会社が、信託型では禁止されている不動産開発やファンド運用を行うことができる。主要銘柄の多く(44銘柄中33銘柄)はステープルド証券で、豪州REIT時価総額の94%を占める(2019年1月末)。外部運用型が多いアジアREITとの比較で特徴的である。
 豪州REITの最大の投資対象は、ショッピングセンターやモールなどの商業施設である。オフィス、産業用施設(物流施設、個人倉庫、データセンター、ビジネスパーク)、ホテル、住宅、ヘルスケア施設、教育施設のほか、パブ、ガソリンスタンドなどへの投資もみられる。昨年8月には、米国や英国の商業施設に投資する主要豪州REITのWestfield CorporationがオランダREITのUnibail-Rodamcoに買収され、豪州REIT市場から退出するなど、商業施設REITに大きな動きが見られた。

2.豪州REIT市場の歴史

 豪州では、スーパーアニュエーションという強制加入の私的年金制度によるREITへの資金流入で、1992年からREITが飛躍的に拡大した。2000年から金融危機前は、M&Aや海外不動産投資の積極化で急速な規模拡大が進んだが、海外(米・欧・日)比率を高めたREITの多くは、金融危機後に財務リスクや為替リスクの顕在化で上場廃止に追い込まれた。かつて日本の不動産に投資する日本特化型REITも2005~2007年にかけて4銘柄上場したが、いずれも2009~2017年に上場廃止となった。

3.豪州REIT市場の課題と見通し

 豪州REITは、2016年前半まで順調に拡大してきたが、それ以降は時価総額10兆円前後で横ばい推移する一方、銘柄数は減少傾向にある。銘柄数は2016年6月の52から2019年1月には47まで減少し、2018年だけでも買収により3銘柄が市場から退出した。最も象徴的なのは前述のWestfield Corporationだが、2018年12月にはAsia Pacific Data Centre Groupを豪州のデータセンターオペレーターのNextDCが買収し、Investa Office Fundをカナダ最大の年金基金OMERSの不動産部門Oxford Properties Groupが買収した。豪州不動産の市場規模が小さいことや、機関投資家による保有比率が高いことを考えると、ポートフォリオ単位での取得を志向した豪州REITの買収は続くものとみられ、今後もM&A動向には注目したい。

欧州REIT

1.欧州REIT市場の概要

 欧州では、1969年にオランダがREIT制度を創設しており、米国の次に長いREITの歴史がある。グローバルREIT時価総額の1割強が欧州で、欧州REITの6~7割はフランスと英国となっている。このほか、オランダ、スペイン、ベルギー、ドイツ、イタリア、アイルランド、ギリシャ、ブルガリア、フィンランド、ハンガリー、イスラエル、リトアニア、ルクセンブルクにもREIT制度がある。
 大陸欧州は通貨が同一で、地理的に近接しているため、欧州REITは上場市場をまたぐクロスボーダーの不動産取引やM&Aが多い。前述のUnibail-Rodamco-Westfieldは、もともとフランスREITのUnibailがオランダREITのRodamcoとの対等合併で2007年4月に誕生したUnibail-Rodamco(欧州最大の商業REIT)がさらに豪州REITのWestfieldを買収した例である。また、フランスの商業施設REITのKlépierreは、2015年4月にオランダREIT最大のCorioを買収した。これらの主要商業施設REITは時価総額が大きため、欧州REITは商業施設のウェートが高いという特徴がある。
 FTSE EPRA Nareit Developed Europe REITs Index(以下、欧州先進国REIT指数)の構成国は英国(4割強)、オランダ(約2割)、フランス(2割弱)、ベルギー、スペイン、ドイツ、アイルランド、イタリアで、構成64銘柄の上位10社が55.4%を占める(2018年末)。オランダのUnibail-Rodamco-Westfield(商業施設)、英国のSegro(産業用施設)とLand Securities Group、British Land Co(ともに分散型)、フランスのGecina(オフィス)などが主要銘柄である。なお、Unibail-Rodamco-Westfieldは、フランスREITとして扱われることもあるが、本稿ではEPRA(欧州上場不動産協会)の区分に従いオランダREITとしている。以下では、主要市場の英国、フランス、オランダについて、概要と特徴をまとめる。

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  • 英国
     英国では、2007年の制度化とともに上場不動産会社の多くがREITに転換し、急拡大した。2012年税制改正で中小私募ファンドのREIT転換も増え、セクターの多様化も進んだ。英国は大陸欧州と通貨が異なり、市場規模も大きいため、FTSE EPRA Nareit UK REITs Indexという独自のREIT指数がある。同指数は、英国REIT50銘柄強のうち34銘柄が組み入れられており、上位5銘柄のSegro(産業用施設)、Land Securities Group、British Land(ともに分散型)、Derwent London(オフィス)、Hammerson(商業施設)が約半分を占める。
  • フランス
     フランスでは、2003年初の上場不動産会社によるREIT転換や、銀行や事業会社による保有不動産の切り離しで、REITが急速に発展した。銘柄数は30弱で、このうちEPRA指数組入銘柄は6銘柄である。主要銘柄は、Gecina(オフィス)、Klépierre(商業施設)、Covivio(オフィス他)、Icade(オフィス、ヘルスケア等)、Carmila SA(商業施設)などがある。
  • オランダ
     オランダは、欧州最古のREIT市場で、金融危機以前は市場規模も大きかったが、フランスREITによる買収で市場規模が縮小した。5銘柄すべてがEPRA指数組入銘柄で、4銘柄が商業施設に投資している。最大のUnibail-Rodamco-Westfieldは欧州、米国、英国の商業施設に投資している。

2.欧州REIT市場の課題と見通し

 欧州先進国REIT指数は、年明けは反発したものの、2018年は通年で16.1%低下し、欧州先進国不動産株(+3.7%)やグローバル先進国REIT全体(+0.3%)を大幅に下回った。世界的に商業施設セクターが不調となる中、欧州の商業施設も例外ではなく、商業施設のウェートが高い欧州REITのパフォーマンスが不芳となったものと考えられる。
 欧州では、上場不動産会社のREIT転換、大陸欧州での大規模なクロスボーダー取引やM&AでREITが拡大した。欧州最大の商業施設REITが豪州の商業施設REITを買収したなど欧州域外(米国や英国)への投資事例もみられている。今後も米国や豪州同様、同資産用途のREIT同士で大規模な再編が続くとみられ、M&A動向から目が離せない。

(株式会社日本金融通信社「ニッキン投信情報 2019年3月18日号」 寄稿)
このメディア寄稿文は日本金融通信社の承諾を得て記事を転載したものです。コピー等はご遠慮ください。

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