アジアにおける上場REIT市場の発展
―最近の動きから

海外市場調査部 主任研究員   安田 明宏

 アジアにおける上場REIT(不動産投資信託)市場といえば、日本、シンガポール、香港が成熟度の高さで知られている。アジアの上場REIT市場の動向を見る際、まずこの3大市場が注目されるのが一般的である。3大市場以外では、韓国、台湾、マレーシア、タイが第2集団として一定の成長が見られるものの、その他の国・地域では、上場REIT市場は存在するが拡大していない、あるいはREIT制度は存在するが上場には至っていない、そもそもREITに関する法的整備が進んでいないというのが現状である。

 REIT市場を機能させるには、不動産取引における透明性や鑑定評価の客観性の向上、導管性や倒産隔離といった法的な整備、市場参加が可能なプレイヤーの多様化・高度化が不可欠である。上場REIT市場の創設はひとつのメルクマールであり、上場が可能であるということは、国際的な評価の向上にも寄与する。インドにとって、2019年4月にREITが初上場を果たしたことは、ひとつの成果であったといえるだろう。そして、インドに続き、フィリピンでは、2020年8月に第1号REITが上場したほか、中国においても、上場REIT市場の創設に向けた動きが見られる。

 フィリピンでは、2009年にREIT法が施行されたが、条件が厳しく、上場に至るREITは見られなかった。2019年10月、証券取引委員会(SEC)が規制緩和の意向を示し、2020年1月、浮動株比率の引き下げや付加価値税の免除などを盛り込んだ緩和策が決定された。これを受けて、大手不動産デベロッパーのAyala LandやDoubleDragon PropertiesなどがREITを上場させる計画を発表した。そして、2020年8月13日、Ayala Landは、フィリピン証券取引所(PSE)にマニラ首都圏のマカティの3物件を組み込むAREITを第1号REITとして上場させた。

 2020年4月30日、中国政府は、公募REIT市場を創設すると正式に発表した。REIT制度自体は2000年代から整備が進められていたが、組成されるREITのほとんどが私募であり、参入できる投資家は限られていた。今回の発表では、有料道路や空港、電気やガス、水道などの関連施設、移動通信の基地局など、公共性の高いものがREITの投資対象となったほか、長江経済ベルト(長江流域の直轄市および省)、京津冀(北京市、天津市、河北省)、粤港澳大湾区(広東省、香港、マカオ)が優先されるエリアとして指定された。投資対象とエリアが限られる試行性、地方政府の債務リスクの抑制といった現実的な課題への対処といった側面も強いが、私募中心だった不動産投資商品が公募に拡大される意義は大きい。8月3日には、申請受付や審査基準などに関する細則も発表された。今後、投資家からの幅広い支持が得られるかどうか注目が集まる。

 フィリピンは、インドネシアやベトナム、インドやパキスタンといった、すでに上場REIT市場のある国の仲間入りを果たし、中国もそれに続く準備が続いている。今後、銘柄数を増やし、市場規模をどのように拡大させるか、投資家をどのようにして継続的に呼び込むかなど、上場REIT市場創設後の課題に取り組んでいくことになる。これらを通じて、アジアにおける不動産投資市場の裾野が広がっていくことに期待したい。

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