2018年不動産・インフラ市場の見通しと注目点

株式会社三井住友トラスト基礎研究所

 2018年の不動産市場は、全体的に価格高止まりの適温状態の相場が継続すると予想するが、世界の政治、経済、金融市場の不確実性や懸念が引き続きリスク要因であり、神経質な市場変動の局面も想定される。今年は、2019年以降の欧米の金融政策正常化(緩和縮小、利上げ)のペースと世界経済の景気サイクルとのバランスが崩れる等のリスクへの備えと、海外不動産やインフラを含む最適分散投資の実践に向けた1年と言えそうである。

2018年の国内不動産市場

投資調査第2部長 主席研究員
坂本 雅昭

 2018年の国内の不動産価格は、ゴルディロックス(適温相場)と言われる経済・金融環境を背景に、大きな変動なく高止まりが継続すると予想している。
 まず投資市場については、期待利回りの低下圧力と上昇圧力が相殺し合い、横ばい圏で推移すると予想している。世界的な低金利で運用難の状況が継続している中、資金シフトで株式市場は高騰しており、リスク分散と安定したインカムを期待できる不動産への投資需要は堅調に推移するだろう。先行して不動産投資を実行してきた投資家は更なる投資拡大を控える動きとなろうが、国内外の公的年金や金融機関には、これから日本での不動産投資を開始、若しくは拡大していくステージの投資家も少なくない。後述のように、賃貸市場も概ね好調に推移する見込みである。これらの状況は期待利回りの低下圧力となるであろう。しかしその一方で、これまでの不動産価格上昇で投資家の慎重姿勢が増してきているのも事実である。低金利とはいえ期待利回りは世界金融危機前の水準を下回っている中で、世界的には金融政策は緩和縮小の方向に舵が切られている。日本では低金利は継続する可能性が高いが、日銀総裁は「リバーサル・レート」(過度な低金利状態の継続が金融仲介機能を阻害すること)について言及しており、金利の先行きには敏感にならざるを得ない。その結果、期待利回りは横ばい圏で推移する見通しである。
 賃貸市場については、世界経済の同時回復と安定した円安環境等を背景に、企業業績は好調に推移し、徐々にではあるが家計部門に波及して消費も緩やかに回復し、賃貸需要は堅調に推移すると予想される。オフィス(東京)、物流、ホテルの3つの市場は大量供給期に入っており、需給バランスは緩和方向に変化していくが、オフィスとホテルについては、大量供給の影響は大きく現れないと予想している。オフィス市場については、女性や高齢者の労働参加等による就業者数の増加がもう一段進むことに加え、企業には将来の人員増や働きやすい環境整備を念頭に就業者一人あたり面積を増やす動きが見られ始めている。2018年に竣工する大規模ビルの多くは高稼働で竣工し、移転元の既存優良ビルは館内増床需要を喚起するであろう。需給バランスは横ばい圏と言っても良い僅かな悪化にとどまると予想している。ホテル市場についても大量供給期に入っているが、今のところ目立った需給バランスの悪化は見られない。2018年6月には民泊新法が施行され、既存の違法民泊で廃業が進み、競合は緩和される。大量供給により一時的に需給バランスは悪化するものの、大きな変化は生じない可能性がある。物流施設市場については、既に大量供給の影響が出始めており、2018年も緩和が続く。特に大阪圏での悪化が大きくなる見通しである。
 このように、投資市場、賃貸市場ともに大きな変化は想定していないが、これまでとは異なり、セクターや都市ごとに差異が生じるため、動向を細かく見ていく必要がある。また、世界に地政学リスクは依然存在しているほか、米国では好景気下で法人減税が実施されるため、インフレが想定以上に進み世界の金融政策に影響を及ぼす可能性がある。ゴルディロックス(適温相場)が急速に冷え込む、または一層過熱する(その後冷え込む)リスクには警戒が必要である。

2018年のJ-REIT市場

REIT投資顧問部長 研究主幹
河合 延昭

 J-REIT市場は、各投資法人の堅調な運用継続のもと、投資魅力のある市場として安定成長を続けると期待している。J-REITの分配金は、引き続きプラス成長を継続すると予想。また、低金利環境の継続や国内景気の回復継続見通しのもと、J-REITのバリュエーション魅力に着目した資金流入は継続するだろう。市場の需給悪化懸念、海外金利の上昇、地政学リスクへの懸念の高まりといった点は昨年同様、リスク要因である。
 J-REITの分配金は、外部成長、内部成長、負債コスト低減がともに寄与することでプラス成長が持続すると予想。ただ、2017年に比べれば一定の成長率鈍化が見込まれよう。外部成長面では、不動産価格の上昇と2017年の投資口価格下落により、分配金向上につながる増資が以前よりは難しくなっている。内部成長面では、既にいずれのセクターでも高稼働に達しており、稼働率上昇による成長余地は乏しい。ただオフィスでは、堅調な需要を背景として賃料単価の上昇が引き続き期待できよう。また、昨年J-REITが調達した長期負債の平均コストは、今年から来年にかけ返済期限が到来する長期負債の平均コストより低く、借換えによる負債コスト低減はまだ続く見通しである。
 一方、分配金成長率の一定の鈍化を前提とすれば、J-REITの予想配当利回りは、足元の水準を挟んだ比較的狭いレンジでの推移となる可能性がある。昨年は合併や自己投資口取得といった投資主価値向上につながる動きも見られ今後の動向が期待されるが、様々なリスク要因も継続しており、大幅な利回り低下を予想しづらい。半面、現状は利回りとともに資産価値面から見たバリュエーション魅力も生じており(NAV倍率は平均で1倍近くへ低下)、堅調な不動産ファンダメンタルズが続く見通しのもとで、利回りの上昇余地も限られるのではないかと考えている。

2018年の国内不動産私募ファンド市場(含私募REIT)

私募投資顧問部 副部長 主任研究員
前田 清能

 2018年の国内不動産私募ファンド市場規模は、横ばいから緩やかな拡大で推移するとみる。緩和的な金融環境の継続から、私募REITや不動産私募ファンドに対する、特に国内投資家の旺盛な投資意欲は継続するものの、取引市場において供給される投資適格物件は引き続き限定的となることが予想され、J-REIT等との取得競争激化を背景に、私募REITや私募ファンドによる物件取得環境は厳しい状況が続くものと考えられる。
 2018年の注目点の一つに、昨年に引き続き国内公的年金やゆうちょ銀行等、大規模な国内機関投資家による不動産投資動向が挙げられる。特に世界屈指の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による不動産投資の開始時期が近づいている。大規模な運用主体による不動産投資がどのように始まり、市場にどのようなインパクトを与えるのか、大いに関心が寄せられるところである。また、海外のソブリン・ウェルス・ファンドや年金による国内物件取得も一部で見られ、その動向も気になる。
 二つ目の注目点は、地方金融機関の不動産投資動向である。今や私募REITの最大の投資家層は地方金融機関となっている。地方金融機関による私募REIT人気は今年も続くのか注目したい。また、不動産市況が反転したときに、私募REIT市場に何が起きるのかあらゆる可能性を考察しておく必要がある。
 そして三つ目の注目点は国内金融機関による不動産融資動向である。シニアレンダーのLTV目線こそ大きく変わってはいないが、メザニンローンや優先エクイティの存在なども気にかかる動きである。金融機関の不動産融資姿勢の急変とそこから派生する急激な信用収縮(あるいはそれらが海外発の可能性もある)の兆しを見逃さないようにしたい。
 不動産価格が上昇し膠着感が増す状況下、私募ファンドによる物件取得の動向や、内外投資家および国内金融機関による不動産投融資動向を注意深く観察することで、市場の小さな変化をも見落とさないことが肝要である。

2018年の海外不動産市場

海外市場調査部長 主席研究員
伊東 尚憲

 海外不動産市場ではキャピタルリターンに多くを期待できず、インカムリターンをより重視した投資が増えそうである。経済環境面では、数々の政治リスクや地政学リスクが2018年に持ち越されているものの、世界経済は比較的好調な見通しである。不動産賃貸市場では、市場によって供給過剰感は異なっているものの、好調な経済を背景に需要は底堅く、緩やかな賃料上昇が見込まれる。不動産投資市場では、投資需要が引き続き強く、ファンダメンタルズも良好なため、高値圏にあるものの取引量は堅調に推移している市場も多い。ただ、過去最低水準にまで低下したキャップレートの更なる低下は期待薄である。各国の金融緩和政策は転換点を迎えており金利は上昇トレンドに転じる可能性が高いことから、不動産価格上昇はキャッシュフロー改善による緩慢なものにとどまる見通し。結果として、インカムリターンの存在感が増すことになる。
 より高いインカムリターンを求めて、投資地域やプロパティタイプを拡大する動きが続きそうである。地域では、米国のセカンドティア都市や北欧や南欧などへの投資対象拡大が続きそうである。プロパティタイプでは、より安定した収益が見込める賃貸マンション(学生向けや高齢者向け含む)への投資が更に注目される可能性がある。一方、不動産取得の手段として企業買収が増えそうである。年末に報じられたフランスのUnibail-RodamcoによるオーストラリアのWestfield買収(247億ドル=約2.8兆円)はその最たるもので、競合の激しい不動産投資市場において物件取得をひとつひとつ積み上げるのではなく、巨大な不動産ポートフォリオを取得する動きとして注目している。

2018年のPPP・インフラ市場

投資調査第1部 主席研究員
福島 隆則

 まず、国内公共インフラを対象とするPPP市場では、今年も空港分野を中心にコンセッション方式を活用した民営化の動きが顕著に見られるだろう。今年は、富士山静岡、福岡、南紀白浜空港などで優先交渉権者が選定され、北海道内複数空港や広島、熊本空港などで民営化に向けたプロセスが進展する予定である。空港以外では、公営ガス事業、公営発電施設、上水道・下水道・工業用水道事業、スポーツ施設、美術館・博物館、クルーズ船向け旅客ターミナル施設などの分野へコンセッション方式の活用が広がることが期待できるだろう。
  一方で、公共インフラのセカンダリー市場は依然醸成されておらず、金融投資家による投資機会はないままだが、昨年末に商社系運用会社による総合型インフラファンドの組成が発表されるなど、期待は高まっている。
 次に、国内民間インフラ市場では、セカンダリー市場も含め、その対象が依然再生可能エネルギー分野にほぼ限定されているが、開発案件では太陽光から風力、バイオマスへのシフトが見られるなど、その内容は変わりつつある。再生可能エネルギー以外では、海外で既に投資対象となっている蓄電池や携帯基地局、データセンターなどの分野への広がりが期待できるだろう。
 最後に、世界のインフラ投資市場では、投資家側の長期・安定したキャッシュフローへの強いニーズを背景に、大型のファンドレイズも含め、引き続きの活況が予想される。一方で、急激な金利上昇や政治・地政学リスクなど、不連続な事象には注意が必要である。特に、これまで世界のPPP市場を牽引してきた英国の政治動向や、米国のインフラ投資政策の行方には注目しておく必要があるだろう。

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